はねバド!

葉山行輝が戦っているモノの正体と海老名悠―「はねバド!」第9話感想その2

第9話は、これまで出てきたさまざまな謎掛けに対する回答が示された回でした。コニーと綾乃については感想その1で語った通り。そしてもう一つ、葉山行輝についても簡単に書いておきましょう。

ポイントは、海老名悠と伊勢原空の会話。悠は伊勢原学が先にバドミントンを始めており、その後行輝と空を誘ったと記憶していましたが、実際はそうではありませんでした。行輝の方が先にバドミントンをやっていて、その後彼に誘われた伊勢原兄妹が始めています。

“アドバンテージ”のあった行輝ですが、めきめき上達した学に追い越されてしまった様子。「1回くらい学には勝ちたかったけどな」という一言から、今までほぼ(もしかすると一度も)後発の学に勝ったことがないと伺えます。

お気づきかもしれません。この構図は、インターハイ予選の悠と同じなんですよね。小学5年生からバドミントンをやっているのに、年下に負けてしまった悠。後からバドミントンを始めた学に勝てない行輝。悠は勘違いしていたので気づきませんでしたが、行輝は悠と自分が同じだとわかっていました。だから「才能」を負けた理由にしがちな悠を強く叱咤する。才能を持ち出すのはまだ早いという。そしてそれは、後輩に言うのと同時に、自分自身にも言い聞かせ続けていたことかもしれません。

行輝がバドミントンをやる理由はいくつかあるでしょう。その中で、才能に抗うことは決して小さくない動機のはずです。才能に勝つこととはすなわち、学に勝つことでもある。そう考えると、第7話の「伊勢原、お前さ、大学でもバドミントン続けんの?」「いや……多分やらない」「そっか」というやり取り、そして直後の負けた悠と行輝とのシーンも、また違う印象で見ることができます。

才能に負けまいと、影で努力を重ねる行輝。公園で彼が一人練習をしていることは悠も知っていたようですが、行輝をそこまで掻き立てる動機、そして自分と同じ境遇であることにようやく気づいたからこそ、悠は急いで差し入れを持っていったのでしょう。結局、面と向かって渡すことはできませんでしたが、「がんばれよ、先輩」の言葉がなんともいじらしい一幕でした。

この作品のテーマである「才能」と「バドミントンをやる理由」は、当然主人公の周りで描写されていることですが、綾乃の周りに留まらず、脇を固める登場人物たちにもドラマとして設けられています。それだけ一面的には語られないテーマであり、「はねバド!」はそんなテーマに対して、手を抜くことなく向き合っている作品と言えるのではないでしょうか。

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