本の感想

「友達の妹が俺にだけウザい」感想―妹どころかもはや“妻”な小日向彩羽の可愛さ

友達の妹が俺にだけウザい1巻

「友達の妹が俺にだけウザい」僕にとっては久々のライトノベルです。余計だと思ってしまう文章が多く、随分前からラノベが読めない頭になってしまっていたのですが、トマリさんのイラストに惹かれて購入しました。

いざ読んでみると、思った以上に楽しむことができました。ヒロインの一人・小日向彩羽(こひなた いろは)に痛く惹かれたことも多分に影響していると思います。

ただ、読者の一部からは「あらすじと違う」と言われているようです。Amazonの販売ページでは、内容紹介として以下のように綴られています。

馴れ合い無用、彼女不要、友達は真に価値ある1人だけ。青春の一切を「非効率」と切って捨てる俺・大星明照の部屋に入り浸るやつがいる。
妹でも、友達でもない。ウザさ極まる面倒な後輩。親友の妹、小日向彩羽。
「セーンパイ、デートしよーーっ! ……とか言われると思いましたー?」
血管にエナジードリンクが流れてそうなコイツは、ベッドを占拠したり、寸止め色仕掛けをしてきたりと、やたらと俺にウザ絡みしてきやがる。
なのに、どいつもこいつも羨ましそうに見てくるのはどういうワケだ? と思ったら彩羽のやつ、外では明るく清楚な優等生として大人気らしい。
おいおい……だったら、どうしてお前は俺にだけウザいんだよ。

確かにこれだけでは、ライトノベルで多く見られるという超効率重視の主人公と、彼にやたらと絡む友達の妹という二人の物語と読めるかもしれません。しかし、これだけでは「二人だけの物語」とも断定できないのではないでしょうか。実際、いざ本を開いてみると、あらすじには収まり切らない世界が広がっています。

正ヒロインは月ノ森真白に見えるけれど……。

本作の主人公・大星明照(おおぼし あきてる)は、ヒット作を輩出している同人ゲームサークル「5階同盟」のプロデューサー。彩羽の実兄にして天才的プログラマである親友・小日向乙馬(こひなた おずま)、美人教師でもあるイラストレーター・影石菫(かげいし すみれ)、メンバーとは面識はないもののデビュー作の小説が大ヒットしているシナリオ担当の小説家・巻貝なまこ(まきがい なまこ/PN)、そして全キャラクターの声を担当する謎の天才声優の5人が集まるサークルです。こう書くと随分なご都合主義ではありますが、ラノベにはよくある部類でしょうか。

大手エンターテインメント企業・ハニープレイスワークスの代表取締役社長を伯父にもつ明照は、サークルの面々を同社に就職させることと引き換えに、ある条件を突きつけられます。それは、明照の通う学校に転校してくる社長の娘=明照の従姉妹の「偽の彼氏」となり、彼女を守るというものです。

その従姉妹、もう一人のヒロインである月ノ森真白(つきのもり ましろ)は明照の幼馴染でもあります。しかし、およそ10年ぶりの再会は「トイレでばったり」という最悪なものとなってしまったため、明照と真白の間にはいきなり深い溝ができてしまいました。

最悪の再会となりましたが、一方で極度の効率厨……すなわち、物事の原因と解決法に真っ先に目を向けたがる明照は思うのです。

「真白はなぜ転校してきたのか?」

真白に散々拒否られながらも、彼女の心の奥底にある思いを見定めた明照は、5階同盟のメンバーとともに真白を一人にさせまいと奮闘します。

という具合で、ストーリー上は一見すると真白が正ヒロインのよう。実際、そう読んで「期待はずれ」という評価をする人も少なくないようです(ちなみに創作系サークルの話と読んでいる人もいましたが、それはさすがに的外れかなと思います)。

確かに、ストーリー的ヒロインは真白になりますが、本当のヒロインであるはずの彩羽はどうでしょうか。彼女は、真白のように物語を動かす恋人候補的なヒロインなのではなく、動く物語の中で常に明照に寄り添う「妻ヒロイン」なんです。ゆえに、彩羽のヒロインらしさを理解できる人とできない人が出るのだと思います。

小日向彩羽の放つ「妻ムーブ」と明照

ただウザかわを求める人にとっては、本作は物語がありすぎなのかもしれません。でも、それゆえに僕みたいなラノベ読めない脳も読むことができる。程よい歯ごたえがあるんですよね。

彩羽には明照にウザく絡むはっきりとした動機と心情がありますが、それは終盤まで明かされません。また効率厨の明照は、それがよもや自分に対する好意だとは思いもしていません(好きならそれ相応の態度を取って当たり前だと考えるから)。

でも、二人の間には距離が近すぎるゆえの恋愛的な不理解と、人間的な深い理解がある。恋人ではないけれど、恋人以上に互いを理解しています。この感じ、彩羽のポジションはもはや「妻」なんですよね。その立ち位置を楽しめるかが、この作品がおもしろく思えるかどうかの分水嶺です。

「効率厨の主人公」というのはいかにもラノベらしいけれど、明照にも魅力があります。効率厨と言いながら、人間には効率的になりきれていないんです。これが実に人間味があって良い。5階同盟でプロデューサーとして振る舞うこと、みんなを大企業に入れたいという思い、従姉妹を助けたいという願い……行動は違えど、それらの根底には彼特有のパーソナリティがあります。自身はそれを「効率的だから」と思っていますが、側から見ればそうじゃない。彼の本質は大変な友達思いであり、彩羽もそれに惹かれての恋心を抱いています(実際、彼女もあることで主人公に救われているのです)。

おそらく、そうした「一人称の小説ながら、文面通りに取らない読み方」もできるから、楽しみ方が広がっています。本書は幕間を除いて明照の一人称で語られるため、書かれていることがすべてと思いがちですが、それは逆です。一人称であるからこそ、彼の視点でしか物語が描かれていないのです。

それを補完するために、彩羽や真白の視点で語られる幕間パートがありますが、それも物語を楽しむため最低限用意されたもの。むしろ彼女たちの視点がわずかながら入るからこそ、明照の自己評価が必ずしも正しいとは言えないことがわかります。「自分で思う自分と他者が思う自分が違う」というのはとても人間らしいことだし、読者も「他者=主人公の近くにいる一人」として読めば、彼の二面性を楽しむことができるでしょう。

そうした読み方は、別段珍しいことではありませんが、ライトノベルというジャンルの読者がやりたいことかはまた別の話。けれど、とにかく余計な文章が気になってしまってラノベが読めなかった自分にとっては、こうした読み方もできる本書は実に堪能することがでいました。何より、彩羽の妻ムーブや、真白が少しずつ心を開く様はとっても可愛らしくいじらしい。「ウザかわ」が看板ではあるものの、その奥に広がる人間模様こそ、この作品の醍醐味なのです。

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