映画の感想

「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」感想―僕は“ユー”ではないんだよ(ネタバレあり)

「ドラゴンクエスト」はVIIとX以外はプレイ。一番好きなのはVIなので、Vに強い思い入れがあるわけではありません(もちろん、すごくおもしろかったけれど)。そうした僕から見ても、「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」は「ドラゴンクエストV」の映画化ではない、という印象です。

問題視されているクライマックスについては、ここで改めて語るよりは、以下の秀逸な批評記事に目を通していただければと思います。端的に言えば、劇中でずっと描かれてきたドラクエの世界が実はVRで作られたゲーム世界であり、主人公はその中に入った会社員らしき青年。そして人の形をした「ウイルス」なるものが「大人になれ」という言葉とともにゲームの世界を壊そうとするものの、リュカ(に扮した主人公)が「それでもこの世界はすばらしいもう一つの現実だ!」と、ロトの剣を一閃、ドラクエの世界を取り戻すというオチです。

【ドラクエ映画】ドラゴンクエスト ユア・ストーリー感想【ネタバレ】
http://claim-mnrt.hatenablog.com/entry/2019/08/03/133953

映画『ドラゴンクエスト ユアストーリー』感想。というか罵倒。大人の作家的虚栄心のために子供の観客を踏みつけちゃダメ。
https://www.cinema2d.net/entry/2019/08/04/232353

正直、ここまで来るにも映画としての出来はどうなんだろう? と疑問を呈す箇所は多々ありました。親子三世代にわたる壮大な物語は大変に断片的であり、わざわざ主人公を流されやすい“今風”な性格にしたにもかかわらず、まったく感情移入ができない(そもそも、そんなドラクエの主人公を見たい人は一人もいないと思いますが)。シリーズの音楽をごちゃまぜにして突っ込んできたり、急に「武士の情け」という言葉が出てきたり、ギガンテスがルーラを使ったり、世界観に対するリスペクトはないのだろうと伺えます。

ある意味、その「リスペクトのなさ」の集大成が上記のラストシーンなのかもしれません。ゲームを否定する言葉を、ゲームを肯定するロトの剣で真っ二つにする。でも、山崎貴総監督が「思いついた」というこの展開は、思いついた人がゲームを見下しているか、敵対視していないと出てこないと思うのです。

ドラクエどころか、「ゲームに対するリスペクトのなさ」が、細かな……けれど見れば確実にわかる、世界観のほころびを生んでしまう。「大人になれ」というウイルスの言葉は人を嫌な気持ちにさせる一言ですが、あれは山崎監督がゲーマーに対して、もしかすると山崎監督が自身に対して言い聞かせたい言葉なのではないでしょうか。いえ、さすがにちょっと考えすぎかもしれませんが、そう思わせるくらい、このあとのリュカの言葉が薄っぺらくて、頭にまったく残らなかったんですよね。

もう、人の娯楽に口を出す時代ではない

それにしても、「大人になれ」という言葉は久しぶりに聞きました。「ゲームは時間のムダ」「いい年してゲームなんて」という価値観……というより、誰かの楽しみに対して口を出すという行為は、20年〜30年くらい前のものでしょうか。

そう、もうそんな時代ではないのです。ものの20年そこらで人の価値観はどんどん多様化し、人生における楽しみは人それぞれになりました。酒・タバコ・女をやらない男性なんていくらでもいます。買い物じゃなくて、家にいることが楽しい女性もいます。ゲームひとつを取っても、ただ遊ぶだけではなく、家族みんなで楽しめる作品が生まれたり、勉強やフィットネスになったり、子どものクリエイティビティを育むソフトが世に出されたりしました。ゲームがきっかけで結婚した人もいます。

それだけ、人が何を好み、何を遊ぶか、そしてモノ・コトが持つ役割は本当に多種多彩になり、またそれをむやみに咎めることも、昔に比べればずっと少なくなりました。僕はさすがにタピオカを買うのに6時間も並ばないけれど、ある人にとっては有名店のタピオカをInstagramにアップするタピ活が楽しみの一つであることはわかります。その逆も然り、でしょう。

このような時代の中で、悪役が「大人になれ」と言い、主人公がそれを否定するというクライマックスは、誰が発案であろうとも、もう古いと言わざるを得ません。あんなふうに肯定されなくても、僕らはもう「ゲームが好き」であることを自身で肯定できている。ゲームが犯罪の影響に、という報道も出てくるけれど、そんなわけないことは一定の人々はわかっています。街を見渡せば、「Pokemon GO」「ディズニーツムツム」などをプレイしている人は老若男女問わないのです。

「ユア・ストーリー」と銘打たれている理屈はわかる。でも、僕はこの押しつけがましい肯定を受け取る気はない。「これは君の物語なんだよ」と言われなくても、もうわかっているのです。

僕はあなたにとっての“ユー”ではない。

時代錯誤の押しつけがましい価値観を胸に押し込められた後味の悪さを、ビアンカの可愛さを反芻しながら打ち消そうとする、そんな鑑賞後でした。いやぁ、ビアンカ可愛かったなぁ。ビアンカ本当に可愛かったんですよ。

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