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私、人類を救ったんだよね―「Fate/Grand Order Orchestra」レポート

前職の仕事の関係もあって、ゲーム音楽のオーケストラコンサートには何度か足を運んだことがあるのですが、アプリゲームのオーケストラコンサートは初めてです。こうした催しが開催できることも、「Fate/Grand Order」(FGO)という作品が長く愛され続けてきた証左でしょう。

熱いファンの末席も末席に連なる者の一人として、僕も4年弱、この作品をプレイしてきました。当然、「FGO」の音楽も毎日聞いているわけです。「毎朝、通勤・通学時にこの曲を聞いている」というお決まりの一曲がある場合は別ですが、同じ曲を毎日聞くという体験は、意外とないのかもしれません(しかも何年も!)。

こうして耳馴染んだ楽曲――ともすれば、多少なりとも聞き飽きたほどの音楽たちが、鮮やかに色彩を帯びる。そんな2時間が、この「Fate/Grand Order Orchestra」でした。

セットリスト

第一部

01. Grand Order/カルデア(orchestra ver.)
02. 炎上汚染都市:冬木(orchestra ver.)
03. 人理の光(orchestra ver.)
04. 邪竜百年戦争:オルレアン(orchestra ver.)
05. 聞き慣れたメロディー(orchestra ver.)
06. エマージェンシー(orchestra ver.)
07. 集いし英雄/鋼の矜持/勝利(orchestra ver.)
08. 不屈の覚悟(orchestra ver.)
09. 運命 〜GRAND BATTLE〜(orchestra ver.)

第2部

10. イグニッション/解き放つ力(orchestra ver.)
11. 人理の錨 〜魔神柱戦〜(orchestra ver.)
12. 神聖円卓領域:キャメロット(orchestra ver.)
13. 最果ての死闘 〜女神ロンゴミニアド戦〜(orchestra ver.)
14. 絶対魔獣戦線:メソポタミア (orchestra ver.)
15. BEAST II 〜ティアマト戦〜(orchestra ver.)
16. Fate/Grand Order(orchestra ver.)
17. 絆/蒼穹の未来(orchestra ver.)
18. outbreak 〜FGO〜(orchestra ver.)

Encore

19. 色彩 〜訣別の時来たれり〜(orchestra ver.)

原曲を豊かに広げる音の彩り

おそらく、ではあるのですが、このコンサートはアレンジに対して非常に力を入れたのではないでしょうか。

ゲーム音楽は(特に戦闘曲などは)繰り返しになりがちですが、このオーケストラコンサートでは同じ旋律でも演奏する楽器が変わっていったりして、「その音をその楽器で鳴らすとこうなるのか!」と驚きを与えられたことも多々。何度も聴いている曲が本当に彩り豊かに演奏されていました。

原曲の広がりといいますか、大げさに書くと“音楽の可能性”すら感じさせてくれるほど。アレンジだから当たり前ではあるのですが、また一風違った曲に感じられてとても新鮮なんです。オーケストラに合ったやり方、オーケストラだからできることを追求していて、良い意味で原曲と差別化されていました。

今回はPA(マイクやスピーカーなどの電子音響設備)は使わず、生音のみのコンサートでした。そのぶん、様々な楽器によって多彩な表現がなされています。

ティンパニやホルンなど、個人的に印象深かったパートはいくつかあるのですが、他のオーケストラコンサートに比べると、ピアノの見せ場が多かったかもしれません。文字通り、要所要所で「要」となる旋律を美しく奏で、ハープとともにその音色を観衆に印象づけました。

「人理の光」など一部楽曲では、五阿弥ルナさんによるソロボーカルも参加。あの楽器たちの中で歌うというのは、きっとバンドのボーカルとは違った意味合いなのでしょう。非常に美しい歌声が、楽器から響く音と綺麗に溶け合っていました。改めて、人間の身体も楽器なんだなと実感します。

このコンサートの中で一番大きな楽器――マルク・ガルニエ社製作によるパイプオルガンも使用されました。きちんと調整しているからだと思いますが、あんなに大きいのに音色は重たくないんですよね。こちらも、オーケストラの音と綺麗に調和されていました。

コンサートでは、このパイプオルガンとホール左右の壁面を用いたプロジェクションマッピングも披露。最後の曲「outbreak 〜FGO〜(orchestra.ver)」ではサーヴァントの歴々が次々に映し出され、コンサートホールはカルデアさながらの様相に。これは実にグッとくる演出でしたよ。

でも、今回のコンサートで一番楽しめたのは、演奏が終わったあとの余韻です。演奏会のマナーとしても「余韻を楽しんでから拍手する」というものがありますが、ホールという空間に響いて消えていく音を最後まで“見届ける”楽しさは、コンサートホールにいるからこそ。これが本当に気持ちよくて、CDはもちろん、同じ生音を楽しむライブハウスでも味わえない瞬間です。ぜひまた、「FGO」楽曲でこの余韻を楽しめる機会が生まれたらと思います。

音楽が連れてくる「FGO」の記憶

個人的な感覚の話になってしまうのですが、例えば「FGO」のスクリーンショットを見たときに、そこで流れていた音楽ってそんなに出てこない気がするのです。

でも、音楽を聞くと、その曲が流れていたシーンは本当に簡単に出てくる。「カルデアの廊下でマシュと談笑しているところ」「レイシフト先の街を探索しているところ」「話の途中でワイバーンが出てきたところ」「特異点を修正してサーヴァントと別れるところ」……。

改めて聞くと、「FGO」楽曲はもちろん良い曲が多いのですが、音楽が目立ちすぎないようにしてあるんじゃないかと感じました。あくまでも主役は、マスターであるプレイヤーとサーヴァントにあります。ゲーム音楽のオーケストラでよくある、ムービーやプレイ動画をバックに演奏する形態が取られなかったことを(入場時は)意外に思っていたのですが、「FGO」にそれは必要ないんです。マスターたち一人ひとり、ともに歩んだサーヴァントも違えば、人理修復のプロセスも違う。だからこそ、マスターたちそれぞれの心の中に、「自分だけのFGO」があるはずなんです。ゆえに、画一化されたイメージを提示する必要はない。映像がなくとも、あのホールにいた一人ひとりの目には、自分が歩んできた、あるいはこれから歩む人理修復の旅路が映し出されていたことでしょう。「FGO」は、ロールプレイングゲームなんです。

一緒に行った友人が終演後につぶやいた言葉が印象的でした。

「ちょっと忘れてたけど、私、人類を救ったんだよね」

 












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