虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のファーストライブ、そのアンコールの手法に、大変驚かされました。
もう一度歌ってほしいメンバーのペンライトを観客に振ってもらい、その数でもう一度歌えるメンバーを決めるのです。てっきり「全員です!」なんて言って9人が出てくるものかと思いきや、ガチで一人ずつ。1日目は優木せつ菜、2日目は中須かすみがその座を獲得しました。
その一方で、2日目ラストのMCでは、上原歩夢を演じる大西亜玖璃さんが、アンコールを取れなかったことを本気で悔しがる一幕も。虹ヶ咲らしい、非常にシビアなシーンです。
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会としての苦悩
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の展開は、他のスクールアイドルと比べてかなり独特です。投票イベントが毎月行われているほか、シリーズでずっと重用していた作詞家も外す(個人的には賛成です)、そして上記のアンコール。先代たちの進み方を倣うのではなく、独自の歩みを今も模索している子たちです。本日発表されたアニメ化で、キャラクターデザインが変わっていることに賛否あるようですが、僕は虹ヶ咲のチャレンジングな姿勢がすごく好きです。同じことをやっても、あまりおもしろくないですしね。
ただ、それゆえの苦悩を彼女たちは味わっています。
天王寺璃奈を演じる田中ちえ美さん曰く、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会はアプリ発のグループであるため、アニメ化の予定はないとオーディションで言われていたそうです。
近江彼方役の鬼頭明里さんは、マンスリーランキングで1位になれなかったら悔しいし、1位になったらなったで「なんであいつが?」という声もあって苦しいという気持ちを吐露(彼方は2019年9月度のランキングで1位を獲得)。正直、そんな声を上げる感覚が理解できないのですが、そんなものがいくつも出てしまう事態があるとするならば、少なくとも一人の人間が受け止められるものではありません。
鬼頭さんの“告白”には胸を締め付けられるものがありましたが、マンスリーランキングで何度も1位を獲得しているせつ菜と、彼女を演じる楠木ともりさんの思い、そして状況は推して知るべし、といったところでしょうか。「大好きの気持ちを大切に」と訴えたのが楠木さんであることは、言葉以上の意味があるように思うのです。
前田佳織里という“女優”
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会は、メンバーそれぞれのソロ活動の集合体である点が最大の特徴です。ゆえに当初からソロ曲が多く、ライブのセットリストにもその特徴が表れていましたた。各人が、2曲連続で自分の楽曲を披露するのです。
彼女たちのパフォーマンスを生で見るのは、今年3月に行われた「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 校内マッチングフェスティバル」以来。あの頃から比べると、9ヶ月でかなりの成長が感じられました。
「開花宣言」の高いキーを踊りながら歌い上げた大西さん(手の振りがめちゃくちゃ綺麗ですよね)。キャッピキャピなかすみの空気感を完璧に身にまとった相良茉優さん。校内マッチングフェスティバルの時はちょっと苦しそうだった「めっちゃGoing!!」を、元気いっぱいに歌い切ってみせた村上奈津実さん。アップテンポ曲の中で一番楽曲に入れていたんじゃないかと思うほど、キャラクターボイスでハイパフォーマンスを見せた田中さん。ご本人独特の雰囲気と彼方のメルヘンな曲が非常にマッチしていた鬼頭さん。子どもたちと一緒のパフォーマンスで完全に歌のお姉さんだった指出毬亜さん(指出さんも腕が長くて、パフォーマンスが映えますね)。「Wish」で入り込みすぎて感極まるも、「Starlight」で一段とキレのあるダンスを見せた久保田未夢さん。ヘッドライナーの重責を果たしつつ、若々しさと力強さいっぱいで会場を真っ赤に染めた楠木さん。虹ヶ咲に限らず、ソロ曲はキャラクターの人間性とアーティストの個性がもろに出るので、僕にとって大好物です。
ただ、画面に映るキャラクターに合わせてダンスしたり、踊りながら歌ったりするのは、本当に難しいこと。ダンスや歌が本職ではない人にとってはなおさらです。「ラブライブ!」ファンは特に目が肥えてしまったと思いますが、当たり前のことじゃありません。難しいパフォーマンスを披露する中で、わずか9ヶ月の間でも成長が見られたのは、とてもうれしいことでした。これも「ラブライブ!」の醍醐味ですよね。
その中で、特に目を引かれたのが、桜坂しずくを演じる前田佳織里さんでした。
多分、ではあるのですが、クレバーな方なんだと思います。動画やMCで出てくる言葉からもそれが窺えるし、イメージを保つように言われそうな“若手女性声優”でありながら、三枚目ムーブもできる。今日もMCで滑りかけた人にハグしたり、言葉に詰まった人の背中を叩いたり、肩に手を回したりしていましたが、気配りとそれを体現するフットワークもある。「えにし酒」を見ていても、個性の強さを感じさせてくれますよね。
だからこそ、「演じる」ということに、とてもこだわっているのではないでしょうか。
「オードリー」「あなたの理想のヒロイン」とミドルバラード寄りの曲が持ち歌ですが、どちらも目線の配り方がとても上手い。今回のライブでの前田さんを見て「美しい」と思う方も多かったと思うのですが、要因のひとつが目線、そしてそこから生まれる表情です。可愛いというよりは、カッコいい……でもその一方で、「あなたの理想のヒロイン」の間奏で見せた微笑みが、脳裏に焼き付いています。ステージ上での演技力の高さは、バンド活動の賜物かもしれませんね。
そう、ずっと「オードリー」を生で聴きたかったんです。試聴動画で聞いたときに「しずくはこんな思いを抱えているのか!?」と衝撃を受けた曲。虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の中でも、独特な雰囲気をはらんだ歌です。それがライブという生の舞台で、前田さんの演技力をもって見事に昇華されました。声優になるまで演技経験がなかったって本当?と驚くほどのクオリティでしたが、きっと鍛錬を重ねたゆえでしょうし、そもそも演じることが好きなのだろうと思います。彼女の中にいるしずくが、息づくようなステージでした。
アニメ化を経て、桜坂しずくという人間の輪郭がもっとはっきりしてきたら、よりシンクロして映るようになるのでしょう。そしてそれは、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のメンバー全員もきっと同じ。「どうなるかは僕ら次第」のその先で彼女たちが何を見るのか、陰ながら応援していきたいと思います。
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