はねバド!

コニー・クリステンセンはなぜ、羽咲綾乃と距離を縮めようとしたのか―「はねバド!」第9話感想その1

和やかな始まりから一転、コニー・クリステンセンが本音を漏らした途端に重たい雰囲気が広がった第9話。言うなれば、トラウマのすれ違いです。この不幸なボタンの掛け違いを紐解くために、コニーと羽咲綾乃、それぞれの心情を追っていきましょう。

コニーが本当にほしかったもの

序盤は、コニーの可愛らしいまでの不器用さと素直さがふんだんに表現されていました。志波姫唯華に「そうじゃないでしょ」と咎められながらも、バドミントンの試合をやりたがる。綾乃のために取った「ほえほえ」のファスナーチャームも、ビッグバックパックの前に霞んでしまい、渡せなくなる。それでも、コスプレをした綾乃を「可愛いんじゃない」と赤面しながら褒めたり、肉まんを分けられて嬉しがったり。何とかして相手との距離を縮めたい子の姿が、みずみずしく描かれていました。

そんなコニーは、隣のテーブルにいた姉妹のやり取り、そして素直な気持ちを口にしたために家族3人が笑顔になったのを見て、ずっと抱えてきた思いを綾乃に打ち明けます。

「家族になりたいの」

これが、彼女の伝えたかったこと。宮城から神奈川まで来た理由。ではなぜ家族になりたかったのか? そしていつからそう思っていたのでしょうか?

合宿での一幕で、堂々と「有千夏は私のママだよ」と綾乃に宣言したコニーでしたが、当の羽咲有千夏は日本に帰国すると、「綾乃の試合を見てくる」と、自分の元には来ませんでした。いくら自分を育てた人物と言えど、コニーからすれば母子のつながりを感じずにはいられなかった出来事だったでしょう。

有千夏と綾乃は、切っても切れない関係。ならばせめて、その中に入れてほしい。でもコニーは、自分の過去も、自分の思いもうまく伝えることができません。だから、バドミントンの試合をするのです。若きデンマーク代表にはバドミントンしかない。バドミントンしか伝える術がない。「勝ってママに自分の価値を証明する」とはかつてのコニーの弁ですが、同じやり方で有千夏の娘にも自分の価値を伝えようとしたのです。

仲間はおろか、親すらも近くにいなかった、ひとりぼっちのコニー。彼女は有千夏という“救い”にバドミントンの実力を認められてここまで来ました。だからバドミントンしか、他人に受け入れてもらう方法を知らないのです。もっと言えば、他人にとっての自分はバドミントンしか価値がないと思っている。

有千夏の厳しい練習にも、「きっと綾乃ならこれくらい……だってママの娘だから」と耐えてきたコニー。まだ見ぬ綾乃は同じ“有千夏の娘”としてのライバルであり、同時に自分は実の娘ではないという負い目もあったかもしれません。だからこそ、自らの中で神格化した綾乃に少しでも追いつかないと、強くならないと有千夏に認められないと思う。家族として認めてほしい。そのためには、バドミントンで強くなるしかない――。

この姿に見覚えはありませんか? そう、合宿の時の綾乃と同じですよね。本当は条件なんてないのに、バドミントンで勝って仲間として認められたいと思っている。あの時の綾乃が仲間になりかたったのと同じように、今のコニーは家族にしてもらいたがっている。彼女は自分の家族が欲しい。誰かの家族になりたいのです。

合宿の時の綾乃とそっくりなコニーを、当の綾乃が拒絶するのは、なんとも皮肉な構図です。

綾乃はなぜ「勝ち」だけを求めるようになったのか

「家族になりたい」と言ったコニーに対し、拒絶のスマッシュを打ち込んだ綾乃。「今度は私がお母さんを捨てるんだから」という言葉に、今の彼女の動機がはっきりと表れています。今一度、綾乃がバドミントンをやる理由の変遷を整理しておきましょう。

芹ヶ谷薫子に負けたから母が離れていったと思い込んだ幼い日の綾乃は、一人で母を取り戻す戦いを続けていました。しかし、勝っても勝っても母は戻ってこない。それならばバドミントンをやる理由はないと、一度はラケットを置きます。

しかし、バドミントンが好きという気持ちは変えられなかった。それを思い起こし、自分を受け入れてくれた仲間のために綾乃は再びラケットを振るいます。ところが、そこに現れた見知らぬ外国人の少女が、自分を捨てた母に育てられ、あまつさえ「私のママだよ」という。自分の元に戻らず、知りもしない外国人の女の子を育てているなら、もう母なんていらない。自分から捨ててやる――。

ここから、綾乃は再び勝利と強さにこだわるようになりました。それは仲間ができたからではなさそうです。少なくとも今はそういう動機で戦っていないでしょうし、合宿を境に周りへ配慮しない言動も格段に増えました。

ならば考えられることはひとつ。ある意味で、綾乃も有千夏に認められたいのではないでしょうか。すなわち、どんな相手にも圧倒して勝ち、バドミントンの実力を有千夏に見せつけた上で、自分から離れていく。一度自分を見てもらわないと、自分から母を捨てることにならないからです。

「綾乃が強くなったら、いくらでも相手してあげるよ」

「イケメンを見てから戻る」のくだりで、母親譲りの「シャボン玉」の鼻歌を歌っていた綾乃。母と子のつながりを確かに感じはするのですが、それでも綾乃は母に認められたい一心で、コートで戦い続けているのです。

家族をほしがるコニーと、家族を捨てようとする綾乃。でも、バドミントンで認められたい思いは同じ。渡せなかったほえほえが、似た者同士がすれ違う悲しさを表しています。

それでも、コニーには一緒についてきてくれる唯華が、帰りを待っていてくれるチームメイトがいました。コニーは「仲間」と表現していましたが、唯華にとってはみんなが「家族」。フレゼリシア女子の温かさが、せめてもの救いです。

一方で、本当の「家族」……であるはずの人に迎えられた綾乃。最後のワンシーンには、声が出るほど驚きました。果たして次回、彼女は有千夏に対し、どんな態度を取るのでしょうか。

POSTED COMMENT

  1. 匿名 より:

    原作読むんじゃ

    • ばかいぬ より:

      >匿名さん
      コメントありがとうございます! 原作読んでいますよ〜。
      ただ描かれ方が違うので、アニメ版はアニメ版で独立して考えた方が良いかと思いました。
      原作と組み合わせて思考するのは終わったあとにしようかと。
      何か気になるところがありましたか…?

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