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月永求が祖父に見せた優しさを見逃したくないー「響け!ユーフォニアム3」第4話感想

「みんなも頑張れたんだと思う」の高坂麗奈がかわいすぎる。今回お伝えしたいことはこれだけです。

ズルいよ

……冗談はさておき、今回は月永求にスポットライトが当てられたエピソードでした。ものすごい極論を言えば、いなくなるという意味では死も卒業も同じと言えます。その中で、先輩方が口にしてきた「北宇治ファイトォー」も、「まじエンジェル~」も、北宇治高校吹奏楽部では受け継がれている。では求は姉から何を受け取り、どうしたかったのか? というところが今回のポイントになりそうです。

月永求が抱える背景を整理する

さて、まずは求がどのような人物なのかを振り返っていきましょう……と書いたものの、この3期4話に至るまで仔細に描かれることは多くはありませんでした。というか、これが最初で最後かもしれませんね。

個人的にここまでの求への印象は、他人とは明確な壁を作りながらも、みどりこと川島緑輝には異様に素直な男の子で、そのギャップが面白いキャラという印象でした。ところが、この3期4話に来て求くん情報がかなり追加されることに。

まずは祖父である月永源一郎先生。高校の吹奏楽部界では有名な指導者であり、龍聖学園の顧問となって全国金賞に導いています。源一郎先生は求のことをかなり気にかけており、北宇治高校に対して彼の龍聖への転校を打診するほど。その背景には、求のお姉さんの死があります。

求のお姉さんは3年前、つまり求が中学3年生のころに亡くなっています。お姉さんも龍聖に入学したものの、指導者の孫ということで妬みを受けたり、演奏とは関係のないところで苦しみました。一方で源一郎先生は実力だけを見て、お姉さんをコンクールメンバーに選ぼうとした。それが火に油を注ぐ結果となり、吹奏楽のことがとても好きだったはずのお姉さんは病気に。最期は好きな気持ちがなくなったまま、弓と命を落としてしまいます。

求が龍聖学園には断固行こうとしない、それどころか祖父を相手にしないのも、それが理由です。

排水溝によって、源一郎先生と求の間にある溝が表現されています。

みどりに理由を話さなかった理由

求は自分のことについては、他の部員はおろか、唯一心を開いているみどりにさえも話していません。源一郎先生が祖父であることも、みどりと黄前久美子は求の旧知の仲である樋口一弦から聞いたほど。

そして、みどりとの「面談」でも、求は事情を話しませんでした。

結局、みどりに事情を話す姿は最後まで描かれていないんですよね。むしろ、最後のシーンは求が話そうとしたものの、みどりが演奏を持ちかけ、コントラバスの協奏でエピソードが終わっています。

ではなぜ話さなかったか。求のこの言葉がすべてで、これが彼の守りたかったものではないでしょうか。「みどり先輩を見ていると思うんです。姉ちゃんが夢見た高校の吹奏楽部って、こんな感じだったんじゃないかって。音楽が好きで、楽しくて、みんなと一緒に上手くなりたいって、それだけ考えていて」

みどりはどんな時も音楽に対して前向きで、常に楽しんでいて、まっすぐ。逆境にあっても、それを乗り越える方法を考える。そんなみどりに、個人的な問題を持ち込んで悩ませたくない。姉の代わりとまでは言わないけれど、みどりには演奏に関係のない問題を抱えてほしくない。今のみどりのままでいてほしいから、求は話そうとはしなかったのではないでしょうか。

で、これは何もみどりのためというわけではないと思うんです。むしろ自分のため。「なんか、姉ちゃんが想像していた、楽しい吹奏楽をやらなきゃ、姉ちゃんに悪い気がして」という言葉がありましたが、他でもないみどりの隣が、求の見つけた「楽しい吹奏楽ができる場所」なんですよね。

求が望むのは、ただただ上達することを目指す、楽しい吹奏楽ができること。姉が演奏と関係ないところで妬まれ、あのような最期を迎えてしまったからこそ、自分が楽しい演奏をすることを望んでいる。他人と関わらないようにしているのも、万が一演奏と関係ないところで苦しんで、音楽が楽しめなくなるのを防ぐため。姉が想像していた楽しい吹奏楽を自分がやるという、姉と……というより、自分との約束を守る方法だったのではないでしょうか。

うまく伝わるかちょっと自信がないのですが、ここの力加減が絶妙で、私は求のことがけっこう好きになりました。求は「姉ちゃんのために」とは言っていないんですよね。「姉ちゃんに悪い気がして」くらい。だから、あくまで自分との約束として、楽しい吹奏楽を志したと思うんです。これがカッコいいなぁって。

だからこそ、久美子の「私はこのメンバーで、コンクールで最高の演奏をしたい。この3年間で、一番って胸張れる演奏をしたいと思っているから。だから、求くんにも、北宇治のためにいい演奏をしてほしいって。それだけ」という言葉が求の心に響く。「それ、すごく嬉しいです」ってなる。さまざまなしがらみを乗り越えて、ただ純粋に楽しい吹奏楽を、いい演奏を追求する場所にようやくたどり着いたからこそ、龍聖関係者からの声をシャットダウンし続けたように感じます。源一郎先生や一弦が嫌いなのではなく、ただ守りたかっただけ。

ちょっとだけ余談なのですが、今回の求の言葉からは、音楽を楽しむことと上手くなることは両立する、ということがさり気なく示されているように思えます。吹奏楽を楽しい思い出にするか、うまくなって全国金賞を目指すかの2択で後者を選んできた北宇治高校で、自然と新しい価値観が生まれつつあるのかもしれません。

求が見せた、源一郎先生への優しさ

みどりに事情を話さなかった理由、求が望んできたものまでは分かりました。残る疑問はひとつ、なぜこの理由を源一郎先生や一弦に話さなかったのか?

前述したように、純粋に楽しい吹奏楽ができる場所を守るためにシャットダウンしたかった線は濃厚です。一方で、この理由を話してしまうと、龍聖と源一郎先生の吹奏楽を否定する形になってしまうことを避けたとも考えられないでしょうか。

姉の死が求の望むものを明確にしたように、源一郎先生にも何らかの影響は与えたはずなんです。その結果が、(以前はどうだったか分からないけれど)話しやすく、生徒との距離が近く、かつ生徒たちからも信頼されている、不協和音が起こりにくい今の龍聖のような吹奏楽部なのではないか。つまり、源一郎先生もまた、姉の死を乗り越えよう、受け入れようとしている一人なんです。

そんな源一郎先生の姿は、一弦からの連絡で求もある程度は知っているはず。であれば、「『姉ちゃんが夢見た高校の吹奏楽部』をやりたいから、龍聖には行かない」とは口が裂けても言えないと思うんです。それは姉の死を乗り越えようとしている源一郎先生の努力を否定することになるから。

逆に久美子に諭されて、源一郎先生や一弦に話すことにしたのは「北宇治で最高の演奏をする」ことを選んだからに他なりません。いくら相手のためとはいえ、鍵をかけた思いを抱えるというのは、やはり重苦しいもの。それこそが久美子の指摘する「気持ちは演奏に出るよ」だったはずです。

ここまで考えて気を使っていたかというと、高校2年生が考えるにはいささか大人過ぎるかもしれません。でも、自ら久美子を待ち、相談を持ちかける姿を見るに、求はこんなふうに考えてもおかしくないんじゃないか。そう思わせてくれるエピソードでした。

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