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命の意味を与えるのは誰なのか―「Fate/Grand Order THE STAGE -絶対魔獣戦線バビロニア-」

既に物語として成立している作品を、表現を変えて新たに作り出すのは、とても難しいことです。小説なり漫画なりで二次創作をしたことがある人は、「この人こんなこと言うかな?」と迷ったことがあるんじゃないでしょうか。

それはおそらく、「Fate/Grand Order」という物語を、舞台で演じる役者も同じだったと思います。

観客を引き込んだ「声」

音楽のライブにしろ演劇にしろ、ナマモノである以上、そこにいる観客と一体になって作り上げなくてはなりません。そのためには、まず興行が観客を引き込む必要があります。原作のある作品であれば、原作との親和性が重要ではないでしょうか。

その意味では、この舞台FGOは実に見事でした。何しろ、キャラクターたちの話し方が、ゲームで聞く感じそのまんまなのです。声も似ている。マシュ・キリエライトが最初のセリフを発した時には、初めて彼女に会った時のようにキュンとしてしまいました。

マシュだけではありません。アナ、マーリン、イシュタル、エレシュキガル、そしてエルキドゥにギルガメッシュ……マスターたちがゲームでさんざっぱら聞いている声に寄り添いながら、役者たちは自分の肉体から発せられる音を、実にうまくイメージに乗せて演じていました。この「声」たちによって、一気に舞台へ引き込まれた人も多いのではないでしょうか。

この舞台でキャラクターが生きることが考えられている

とにかく キャラクターを大切にする舞台でした。立ち姿ひとつにしても、実に“らしい”のですよね。少し足に角度をつけたエレシュキガルの立ち姿や、威厳を示すように手を広げたゴルゴーンの佇まいは完璧でした。微に入り細に入り、キャラクターに近づこうとしている様子が見て取れます。

で、そのキャラクターたちが歌い、踊り、戦うんです。しかもものすごいレベルの高さで。それぞれのレベルがですよ。広いホールにとても美しく響き渡る、イシュタルやシドゥリ、そしてダヴィンチちゃんの歌声には、圧倒されると同時に惹き込まれるしかありませんでした。

「圧倒」されるので対象からは遠ざかるはずなんですけど、「惹き」込まれるのが不思議ですよね。「FGOのキャラソンだ!」なんて思いながら聞いていましたが、ちょっとその一言では片付けられないくらいのものでした。

歌だけではありません。この舞台にはキレキレのダンスに迫力満点の殺陣、そして噂のプロレスシーンと、身体をめいっぱい使った場面がこれでもかと盛り込まれ、役者たちの身体能力と体力に驚かされます。歌を含めたこれらのリソースはすべて、英霊であるキャラクターたち、そしてメソポタミア文明に生きる人々を表現するために使われているのです。

そう、めちゃくちゃ高いクオリティのパフォーマンスを発揮するのが、メインどころだけじゃないのがこの舞台のスゴさ。アンサンブル(俗に言うモブ)の皆さんもめちゃくちゃ歌上手い、ダンス上手い、文字通り「跳躍」する。よくこのレベルのキャストをこれだけ集めたなと、見事な出来栄えに一驚しました。

意味を与えるのは誰なのか

物語の冒頭で、「命に意味はあるのか」と問うたマシュに対し、ロマニ・アーキマンは「命がなくなる時に初めて生まれるもの」と答えます。(今となっては彼がこの答えを口にするのは重みがありますが、)その「意味」となったのが、藤丸立香やマシュに寄せられた、ウルクの民たちの「ありがとう」だったのかなと思うのです。

意味を考えようとするのは、過去と未来を見てしまうから。人間の普遍的な性質ですが、「何も変わらなかったのに」「なぜこれをやっているんだろう」と考えると、足が止まってしまいます。だからこそギルガメッシュは、立香とマシュに目の前の仕事をやらせ続けたし、自身も次々に寄せられる仕事に――過労死するほど――取り組みました。未来が見据えられるのに……ではなく、未来を見据えられるからこそ、なのでしょう。賢王をはじめ、ウルクの民のみなぎる活力は、今その瞬間を生きることから生まれています。

そこに強い「意味」を加えるのは、やっぱり他人なのだろうと思うのです。「ありがとう」はその証なんですね。今を懸命に生きる命が、「ありがとう」によって他の命とつながり、大きな生命になっていく。大麦がビールやパンになって命を育むように、0が500になるように。立香の生き方はいつもそうで、目の前の時代を、人を絶対に放っておかない。そして彼/彼女自身が、「ありがとう」と意味を与える。だからこそ山の翁も、エレシュキガルも彼に力を貸すのです。

賢王から見たエルキドゥもそう。誰の子なのか、偽物なのか本物なのか、エルキドゥなのかキングゥなのか、そういう過去や未来の「意味」は考えない。ただ、今そこに、自分の親友の姿をした「個」がいる。だからウルクの大杯を与える。この「個」はギルガメッシュによって、友という「意味」を与えられたのです。

これだけ豪華な要素がありながら、第7章という膨大な量のストーリーをうまく舞台に落とし込んだのはすごいの一言。何より「物語が終わったころには、登場していたサーヴァントに来てほしくなる、育てたくなる」という一番の“FGOらしさ”が、このリアルな舞台でも味わえたのは僥倖という他ありません。忙しない毎日の中で、こうして一つの作品に浸れる時間は、僕にとってとても豊かで贅沢な時間でした。こんなにもすばらしい舞台を作ってくれて、「ありがとう」。

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