考え方

「100日後に死ぬワニ」PRプランは読者を力づくで現実世界に引き戻す所業

「100日後に死ぬワニ」の話題性の高さは、まだ娯楽が多様化されていない90年代に、みんなが同じ漫画やドラマで盛り上がっていたころを思い出します。

同じコンテンツをみんなが共有し、この先の展開はどうなるのか、伏線はあるのか考えたり、自分なりの結末を思い浮かべたり、ただ純粋に物語を楽しんだり。結末が分かっているからこそ、そこへの過程を多くの読者が楽しんでいたと思います。

つまり、読者は「100日後に死ぬワニ」という作品の中に惹き込まれていたわけです。それは最終話の掲載後も変わらず、あの性格そのままに(恐らく)善行の末に死んでいったワニくん、そして物語の結末そのものにさまざまな思いを馳せ、浸っていたことでしょう。

そこにブッ込まれた、書籍化、映画化、ポップアップストア、タイアップソングの知らせ。最終話直後という、Twitterが「100日後に死ぬワニ」一色に染まるタイミングで、怒濤のメディアミックスを喧伝したいという意図も、理解はできます。

個人的には、ビジネス的な展開……平たく言えば、「お金儲け」をすることは全然いいと思います。作品への対価は払われて当然ですし、ひとつの作品をさまざまな角度から楽しめるのはとても良いことです。ガンガン稼いていただきたいと思います。

しかし、こういったプロモーションは、「現実の世界の話」なんです。「作品の世界の話」ではない。最終話直後、みんながまだ作品の世界に浸っているときに、力づくで現実世界に引き戻す所業でした。だからこれだけ反発を受けるんです。

仕掛けたのがPRプランナーだかマーケターだか知りませんが、この余韻がまったく理解できていないし、作品を大切にするという感覚が皆無と言わざるを得ません。センスがない。

昨今、コンテンツの消費速度は非常に早く、「鉄は熱いうちに打て」というのも分からなくはありません。ただ、最適なタイミングというものがある。「スピード!!スピード!!スピード!!」とは楽天の「成功のコンセプト」ですが、いくらビジネスと言えど、ばかのひとつ覚えで早くやればいいものではないのです。

前職でマーケティングの部署に身を置き、マーケティング関係のセミナーに行ったり、いろんなマーケターに会ったりしましたが、本当に申し訳ないけれどマーケターという人種は心の機微が分からない人が非常に多いように感じました(もちろん、そうではない人もちらほらいらっしゃいましたよ)。

数字ばかり見て人間の感情のことを考えられないゆえに、こういった読者の心の動きを理解できていない施策を打ち、ともすれば彼らの本来の目的であるビジネスの成功も逃しかねないことになってしまうのではないでしょうか。1週間後……せめて2日後、翌日であれば、受け取る側の反応も変わっていたと思います。

こうした稚拙さが目立ってしまうのは、翻って「100日後に死ぬワニ」が人を惹き込む力のある、非常にすばらしい作品だったことの裏返しでもあります。それを生み出した作者さんが、少しでもうるおってくれますように。

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