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スマイルプリキュア!「なおの想い!バトンがつなぐみんなの絆!!」と、僕の高校野球

 10日遅れで観ながら思わずなおちゃんにもらい泣きしてエントリ。スマプリは大人が観てもハッとさせられることが多いのですが、この回も素直にゴールさせないところが、やはり子ども向け番組らしからぬところ。

 

 観ていて思い出したのが、高校球児だった自分の最後の夏でした。うちは結構な弱小校だったんです。「甲子園よりおもしろいカードが観られる」と言われる県予選で、2回戦までいけばいい方。なので最後の大会で、3年は全員出場させるという方針を取る部活でした。思い出を作るというやつです。
 その中で運動神経のよろしくない僕の立ち位置は、「球は遅いが変化球とコントロールのいい投手」。エースではなく、中継ぎでも何番目かというところ。ただ、甲子園に出たことのある古豪との試合で、他のピッチャーが軒並み打たれた中で僕だけ(球の遅さと緩急が奏功して)3回無失点、それを2年連続でやったものだから、監督やチームメイトの中でも一目置かれるというか、特殊なポジションは確保していました。

 

 さて、最後の夏の大会。2回戦に進んだわが校は、力的には互角な学校に当たります。3回戦で待ち構えているのは強豪校で、そこまで進めば僕の出番だとみんなが言っていました。
 2回戦は緊迫した試合展開となり、1-1のまま延長戦に突入。すると味方打線が奮起して10回表に3点をあげ勝ち越します。裏を抑えれば3回戦進出というところ、しかしエースがつかまり、同点とされてなおもピンチ。二塁上にサヨナラのランナーがいます。
  次打者の打球は三遊間を抜けてレフト前へ。そこで慌てたレフトが、打球処理を誤りファンブルしてしまいます。その間に二塁ランナーは生還し、サヨナラ。高校野球が終わり、僕はダイヤモンドの中に立てないまま、引退となりました。

 

 正直に言うと、一度でいいから応援が鳴り響く中でマウンドに立ちたかったです。あの自分じゃなければ、あのポジションはなかったと思うけれど、もっと鍛えて球速を上げていれば、もっと早く登板することができたかもしれない。未だに悔いが残ります。
 でも、試合終了後は泣けませんでした。チームメイトが、次から次へと僕に謝りにきてくれたからです。レフトのやつも大泣きで。「勝てなかった」「お前をマウンドまで連れていけなかった」ってみんな謝るんです。僕は我慢しちゃいました。泣けなかったです。

 

 

 リレーの選手を決める前、 2年2組はバッドエナジーに包まれていました。誰もが「どうせ勝てない」と言っていた。それはなおちゃんのわがままに巻き込まれたやよいちゃんも同じで、「どうせがんばっても速く走れない」と諦めていました。そこになおちゃんが示したかったのは、「みんなでやることの意味」です。これはただみんなでやるだけではありません。みんなで真剣に勝利を目指すことです。

 

 勝利を目指すなら「やよいは辞退すべき」だったか? それは順序が違います。どうせ勝てないというバッドエナジーの中で、それに反抗すべく立ち上がったなおちゃんに引っ張られる形で、選手5人が決まりました。バッドエナジーが前提で、そこからの最善策です。クラス全体が勝ちたい気持ちならやよいちゃんが辞退するのはありだと思いますが、そうではなかったでしょう。
 ポイントは、そのやよいちゃんがリレー本番でバトンを渡し終わるまでがんばり続けたことです。それもクラスメイトたちが、陰口を叩いていた男の子までもが声援を送るくらいに。自分の気持ちで最後までがんばり続けたやよいちゃんが、バッドエナジーをぶち壊した瞬間でした。

 

 野球は幸せな競技です。色々なところに色々な能力の必要性があって、それにマッチした人が必要とされます。マウンドに上がるのは全員ボールの速い投手ではないし、バッターボックスに入るのは全員打撃の上手な選手ではありません。やよいちゃんと同じく運動のできない僕でしたが、やよいちゃんと同じく伸ばせるところを伸ばそうとがんばってきたつもりです。共感というと言い過ぎかもしれませんが、クラスメイトがやよいちゃんを応援するシーンは目頭が熱くなりましたし、シンプルなぶん野球以上に優劣がはっきりする徒競走の中で、観ている人にそうさせたのは本当にすごいことだと思います。

 

 

 これですんなり終わるかと思いきや、もうひとつ終盤にドラマが待っていました。バトンを受け取ったアンカーのなおちゃんがごぼう抜きをしかけ、トップをあとわずかで抜けるというところで、足が絡まり転んでしまいます。
 ゴールして立ちすくむなおちゃんを見ながら「ああーなおちゃんだから『みんなで気持ちをつないだバトンを私がムダにした』って思っちゃうんだろうなー……」とか考えていたら、なおちゃんみるみるうちに涙がこみ上げてきて泣き出すじゃないですか。もう、あれが謝りにきたレフトのやつとダブって仕方がなかった。彼は別に僕にだけ謝罪の気持ちがあったわけじゃなく、むしろチームへの申し訳なさでいっぱいだったと思うんです。それは、彼がそれをいったん置いて謝りに来てもらった僕が誰よりも一番わかっていなければいけないところだとずっと思っています。彼のことを恨んでいるやつなんて、僕らのチームには誰ひとりいません。みんながみんな、このチームで野球をずっとやれてよかったって間違いなく思っています。それと同じものを、なおちゃんに駆け寄った他の4人は抱いていたはずだし、そういうものがあったからクラスメイトたちは笑顔で集まったのだと思います。それが、なおちゃんの得たものです。あのままゴールしていたら、なおちゃんは足の速さとお姉さん気質でただみんなを引っ張っただけの回になっていました。だからあの脚本は「厳しさを突きつけた」「落としどころはあれしかない」というものではなく、コーナーいっぱいのすごいところに決まったボールなんです。すばらしい脚本だと思います。

 

 

 あれから9年が経とうとしています。泣けなかった僕は以前に比べて相当涙もろくなりました。高校サッカー選手権のドキュメント番組の予告だけで食事中に号泣し、あとで「にぃに、どうしちゃったのさっきw」と妹にからかわれるくらい。あの夏に泣けなかったぶんは、あの夏のことを人に話すだけで涙がこみ上げてきます。でも最後の試合は「1という数字の大切さ」をはじめ色々なことを教えてくれた、一生忘れない思い出です。あの試合は今回、やよいちゃんやなおちゃんの気持ちを幾ばくか共有できたというステキな経験をまた与えてくれました。天国までもっていきたい、僕の宝物です。

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