アニメ感想

あなたは歌うための絶対条件 ー「ラブライブ!スーパースター!!」第3話考察

ああ、やっぱり歌えなかったんですね。1話のラストで本当に歌えるようになったのか怪しいと思いつつ、2話冒頭で「本当に歌ってた!?」と驚いたのですが、事はそう簡単にいかないようです。

歌えない澁谷かのんに対し、嵐千砂都はたこ焼き屋さんのバイト体験で、唐可可はテンションが上がる(?)衣装で後押ししようとします。結局うまくいかず、やさぐれてしまうかのん。本作は重たい背景のある出来事をコミカルに描いたり、かと思いきやそのままシームレスにシリアスなシチュエーションに突入させるのが上手ですね。

「スーパースター!!」のスタイル

真面目シーンに入って可可が口にしたのが、「かのんさんがいてくれたから、可可は今がんばれているんです」という思い。かのんが困った時は自分がなんとかするという彼女の心意気は、ここから来ているんですね。

可可は諦めたり、できない理由を探したりするのではなく、どうすれば自分たちがスクールアイドルとしてステージに立てるのか探っている。かのんとスクールアイドルをすることが夢になっているからです。それだけ、可可にとってかのんはすっかり“スーパースター”なんですね。

歌が好きなのに、人前で歌えないという致命的な弱点を持つかのん。長くその弱点と向き合いながらも克服できず、諦めかけ、やさぐれてしまう。そんな彼女の背中を、持ち前の推進力で押す可可。一方で、この留学生がピンチの時には真の力を解放するかのん。誰かが中心に立って進むのではなく、互いを支え合いながら進むスタイルが、「スーパースター!!」流なのかもしれません。

かのん=スクールアイドル

かのんは、自分のせいで可可の夢が終わってしまうかも、と言います。確かに、かのんがいるからこそ可可の夢は大きくふくらみました。しかしそれは可可の夢において、かのんが必要不可欠な存在ながらも足かせになっていることを意味します。その構図が、かのんを袋小路に追い込ませている。

しかし、ここでは大きなミスマッチが生じています。すなわち、可可にとってかのんはスクールアイドルそのものと同じくらいの存在であるということです。

勉強ばかりで、やりたいことはなかったという可可は、サニーパッションを見て「これだ!」と思ったと言います。自分の気持ちや感じたことを、自由に歌ってみたい。そんな彼女が、同じくらいの衝撃だったと語るのがかのんとの邂逅。方程式のように当てはめれば、可可の中ではかのん=スクールアイドルなんですよね。

可可にとって、伸びやかに歌うかのんは「こんな風に歌ってみたい」という理想の姿、憧れです。そんなかのんと一緒のステージに立つこと自体が、可可の夢のひとつ。ならば、極端な言い方をしてしまえば、代々木フェスのステージに立った時点で可可の夢は叶っているのです。もちろん、かのんが歌えたらうれしいけれど、可可の願いはひとつ。「かのんが私の隣にいてほしい」なんです。

そんな思いをぶつけられて、「じゃあ遠慮なく」と全身で寄りかかるかのんじゃない。他人の思いに超敏感な主人公は、Zガンダムやユニコーンガンダムのごとく、他人の思いを受けて真の力を発揮します。

かのんが置かれている状況は袋小路だけど、可可というエンジンを積んだスーパーカーになれる可能性があるのは確か。ストレートに思いを発する可可と、そのすべてを受け止められるかのんだからこそ生まれる力がある。逆転の目は、まだ残っています。

それは「エネルギー充填完了」のサイン

僕もボーカルとしてステージ上で歌う機会があるのですが、ステージって、上るとすごく現実的になる場所なんですよね。始まれば勢いが生まれるけど、その勢いはいったん冷静になったのち、自分で発熱して生み出さないといけない。

だから、驚異的な成長を見せてきたクーカーの二人、特に可可はめちゃくちゃトーンダウンしてしまう。否が応でも「ちゃんとやらなきゃ」という思いを引き起こす場所だからこそ、「大丈夫」と自分に言い聞かせ続ける。「かのんは歌える確率は高くないだろう」と推測していたでしょうし、そうなったら得意ではないダンスをこなしながら全部歌わないといけない。相当なプレッシャーだったろうと思います。

でも、ライブ会場にいるのは自分たちだけじゃないんです。2話の記事でも書いた通り、二人がこれまで走ってきた道は確かにあって、走ってきた姿を見ている人はちゃんと存在する。その代表格が、他でもない千砂都ですよね。

彼女から端を発した光の園が、パァッと眼前に広がっていく。「がんばれ!」の声が、可可の、かのんに力を与えてくれる。手をつなぐのは「できない」ではなく、「エネルギー充填完了」のサインです。平安名すみれがつないだケーブルを電力が通っていくように、二人がつないだ手をスーパーパワーが駆け巡ります。

「歌える」のカットとセリフが、完全にロボットアニメのハイライトシーンだ……。

結局、1位はなく新人特別賞だったようですが、かのんは1位を取ることよりも大事なものを見つけられたようです。多くは述べていませんし、1つではないでしょう。少なくとも、自分を支えてくれる人のために歌い、フェスまでの日々を含め全力を出し切れたことで「最高のライブ」を完遂したことは、かのんにとってエポックメイキングな出来事だったのは間違いありません。

嵐千砂都のこと

「私じゃなかったら、可可ちゃんもっと楽だったろうな」と隙あらば自己否定をかますかのん。そんな彼女をこれまで支えてきたのは、おそらく千砂都だったはずです。

そこに現れた、幼なじみの新たな相棒。腹筋でかのんを元気づける可可を見て千砂都がサッと帰るのは、二人で過ごすべきだと思ったのか、自分がいなくても大丈夫と思ったのか、もう少し彼女を観察する必要がありそうです。

可可としては、急ではありますが千砂都を加入させることで、歌えないかのんの後押しをしたかったはず。一方で、千砂都は千砂都でやるべきことがある。とても協力的で優しい、非の打ち所がない千砂都ですが、他人との線引きはスッとできる、ある意味でドライな部分をあわせ持っているのかもしれません。

POSTED COMMENT

  1. 椿(Chin) より:

    冒頭で「今まで、大事な時以外は歌えてたのに」と、ありあが言いました。
    でも、歌えなかったのは本当に「大事な時」だったのだろうか?と思います。
    作中で描写された入学試験や合唱大会の画面では、客席の照明は暗く落ちて観る人の顔が見えません。人がいるのかさえ分からない画もあります。
    もしかしたら、大事な場面だから緊張して歌えないのではなく、自分の歌が受け入れてもらえるか分からない不安がそうさせていたのかもしれません。
    だから、”応援してくれそうな人” に配られたサイリウムが光り輝く時(かのんの歌を聴きたいと思う人が見えた時)、彼女は歌えたんだろうなと思います。

    「私にはダンスがあるの。ダンスで結果を出すことが、今の私の一番の目標」
    やっぱり、千ぃちゃんは二人で音楽科に行こうとしていたのに自分だけ受かってしまったことに負い目を感じて、かのんに報いろうと頑張ってしまっているのだなと思いました。…思いましたが…千ぃちゃん…。

    • ばかいぬ より:

      めちゃくちゃ良い視点ですね、それ書きたかったですw
      「誰かのため」と思えばものすごい力を発揮するかのんですから、
      誰にこの歌を届けるのか、誰のために歌うのかがサイリウムによってはっきりした時、
      今までの限界を超える力が発揮できたんですね。勉強になりました!!

      千砂都は良い子すぎるゆえに、椿さんが書いてくださったようなことを考えていそうですね。
      個人的には(千砂都には申し訳ないのですが)ものすごい闇を抱えていてほしいと思っています(小声)。

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