アニメ1期感想

高海千歌が肯定した「津島善子」―ラブライブ!サンシャイン!!第5話感想

 なかなかに驚かされるアバンから、第5話は始まりました。これまで数えるほどの出番しかないながら、その堕天使ぶりを随所に発揮していた津島善子が、堕天使をやめたいというのです。

 第5話は、普通になりたい善子と、普通になりたくないAqoursとの物語でした。

 

 物語の中盤、「とにかく私は普通の女子高生になりたいの! 何とかして!」と国木田花丸に懇願する善子。実にストレートな言葉で、彼女の願いが言い表されています。事あるごとについ顔を出してしまう、自ら考え出した“堕天使ヨハネ”。善子は中学時代に散々披露していたこのヨハネを抑えて、普通の高校生になりたがっています。

 一方で、Aqoursの高海千歌は「こんな何もない場所の、地味アンド地味アンド地味、なスクールアイドル」と自称しています。スクールアイドルランキングがなかなか上がらないことに悩むAqoursは、何とかして“普通のスクールアイドル”を覆したいと思っている。

 普通になりたい高校1年生と、普通でいたくないスクールアイドル。2つの存在は一見、相反しているように見えますが、実はまったく同じことに頭を悩ませています。久々に学校に足を運んだ善子が、花丸にリサーチしたとおり。要は、「人からどう思われているか」です。

 同じことで悩んでいる2つの存在が邂逅したとき、物語は動き始めます。

 

津島善子のアイデンティティ

 善子の堕天使キャラにインスピレーションを受けたAqoursは、「堕天使アイドルっていなくって、結構インパクトあると思うんだよね」という千歌の一言で、イロモノアイドルにチェンジ。確かにランキングは急上昇しましたが、しかし「インパクト」を求めたどこぞのスクールアイドルが迷走したように、Aqoursの人気上昇も一過性のものに過ぎませんでした。

 そんなAqoursを、生徒会長・黒澤ダイヤが諌めます。「キャラが立ってないとか、個性がないと人気が出ないとか、そういう狙いでこんなことするのはいただけませんわ」。スクールアイドルをよく知る人の言葉です。

 ダイヤの言葉は至極正しい。しかし正論は、時に知らないうちに人を傷つけてしまうこともあります。このダイヤのダメ出しで“堕天使”を否定されたと思ってしまった善子は、落ち込んでしまいました。さもありなん、彼女にとって堕天使とは、アイデンティティだったからです。

 動画サイトで堕天使占いの生放送を配信する。自己紹介で堕天使と自称する。善子にとって「堕天使ヨハネ」とは、人に見せるための自分なのです。梨子になぜ黒装束を学校に持ってきたのか問われた善子は「それは、まあ、ヨハネのアイデンティティみたいなもので」と苦し紛れに答えていますが、ただの言い逃れとも言えません。人に見せられる自分が“ヨハネ”なら、人に見せたくなかったのは、普通の高校生である“津島善子”。だから善子は、ついヨハネになってしまいます。

 なぜ善子は“津島善子”を見せたくなかったのか。きっと、自分が何もない人と思いたくなかったからでしょう。アイデンティティとは、自分が自分である理由、拠りどころのこと。自分が自分だと認識し、認識されるための何か。そして人に見せたい自分は、認識してほしい自分。つまり“ヨハネ”はハリボテでも妄想の産物でもなく、津島善子自身なんです。

 ヨハネを始めたのは、自分自身のキャラクター性を確立させて目立とうとしたから。でもそれでは逆効果になると知った善子は、今度は普通の女子高生になって、周りと溶け込もうとしています。

 「普通の女子高生」になろうとするのは、これまでの行動とまったく真逆です。しかしヨハネを生み出すことも、普通の女子高生になることも、願いは同じ「津島善子を認識してほしい」です。「私たちと同じで、あまり目立たなくて。そういう時、思いませんか? これが本当の自分なのかなって」と花丸が話したとおり、アイデンティティを求めたゆえの行動です。本当はもっとキラキラできる。だから、何かになろうとする。

 ここに、千歌との共通点があります。

 

リトルデーモンの証

 千歌も1話で似たようなことを話していました。何かをがんばってきたとか、大好きなことに夢中でのめり込んできたとか、将来こんなふうになりたいって夢があるとか、そういうものはひとつもなかったと。「それでも、何かあるんじゃないか」と思っていた千歌。彼女もまた、アイデンティティ=キラキラできるものを探していた子です。だから、スクールアイドル部を設立しました。行動のベクトルは違えども、探し求めていたものは善子と同じ。この複雑な自我を持つ1年生の気持ちを一番よく理解しているのは、千歌だったのです。

 堕天使アイドル計画を進める中で、千歌は「みんな色々個性がある」ということに気がつきます。「みんなと話して、少しずつみんなのことを知って、全然地味じゃないって思ったの。それぞれ特徴があって、魅力的で」。そこに気づいた千歌だからこそ、善子に「自分が好きならそれでいい」と言葉をかけることができるのです。

 そもそもダイヤが否定したのは、Aqoursのスクールアイドルとしての在り方。決して、善子の人間性を否定したわけではありません。だから千歌は、ダイヤが怒ったのは「私たちが悪かった」。けど、「善子ちゃんはいいんだよ、そのまんまで」と肯定します。

 μ’sが伝説を作れた理由、スクールアイドルがここまでつながってこられた理由を、「ステージの上で、自分の好きを迷わずに見せること」「自分が一番好きな姿を、輝いてる姿を見せること」を貫いてきたからだと説く千歌。大事なのは、彼女はただ“堕天使ヨハネ”を肯定しているわけではないということです。普通の女子高生でなければ周囲と溶け込めないわけでもなければ、“堕天使ヨハネ”でなければ認識されないわけでもない。千歌は、そのままでいいと言っている。「津島善子」そのものを肯定しているのです。

私、このままでいいと思うんだ。だって、みんな個性的なんだもん。
時間をかけてお互いのことを知って、お互いのことを受け入れあって、ここまで来られた。
私はそんなμ’sが好き。

 堕天使が好きなら、堕天使を好きな自分を大切にする。それが、キラキラするということ。人からどう思われるかなど考えることなく、好きを楽しみ、貫くこと。善子の堕天使占いの動画に、否定的なコメントがひとつも寄せられなかったのが、彼女がキラキラしていた何よりの証拠です。

 この5話で一番大切な言葉は「やだったらやだって言う」だと思います。多分それは、今まで誰も“ヨハネ”に言ってくれなかった言葉。本当の友達としての言葉。これこそが、“リトルデーモンの証”なのではないでしょうか。

POSTED COMMENT

  1. 拓ちゃん より:

    今回もコメントさせていただきます。

    私もサンシャイン!!のTVアニメについては感想メモを残しているのですが、そこで私がアンカーしていたのが─

    ・千歌から善子への全肯定
    ・「やだったら、“やだ”って言う」

    この2点でした。
    ばかいぬさんの感想を見て、やはりこの2点を挙げていらしたので、少し嬉しくなりました。

    前作第1期5話「にこ襲来」からもインスパイアされていると思われる今回。
    当事者からのアプローチは異なるものの、マイノリティであった善子とにこを仲間に迎え入れようとするメンバー達の心の動きは、非常に近いものがあったように思います。

    それで、次回が「PVを作ろう」
    またもや前作1期と似たような流れになっているようですが、これに加えて果南の復学と鞠莉からダイヤへ送られたメールの真相が絡んで、次なる展開が楽しみでなりません。

    • ばかいぬ より:

      >拓ちゃんさん

      毎度ありがとうございます!
      そうですね、挙げられていたその2点はやっぱりこのお話の軸になったなぁと思います。

      自分を通すのが正解かどうか迷っていた善子、自分を通しながら結果が出ないにこと、
      そういう存在に別け隔てなく接することができるのが、彼女たちのいいところなんだろうなーと感じました。
      6話もちょこちょこ動きがあっておもしろかったですね!

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