国木田花丸と黒澤ルビィが体験入部し、5人で練習をすることになったAqours。この時、彼女たちは手をつなぐのではなく、手を重ねて掛け声をあげました。

 そう、このお話は“μ’sの文法”。すなわち、「やりたいことは?」ともう一度問うエピソードなのです。

 

誰かと一緒にいてあげられる子

 極端に人見知りなのに、スクールアイドルの話になるとこれ以上ないくらいイキイキとするルビィ。好きなことに目を輝かせるその姿は、桜内梨子や高海千歌と同じくらい、いやそれ以上にやりたいことがはっきりと分かる子です。

 しかし、ルビィはせっかく入学した学校にスクールアイドル部が創設されたのに、入部しようとしません。一番やりたいことなのになぜか? その大きな理由は、スクールアイドルが嫌いになってしまった姉・黒澤ダイヤの存在でした。

 「本当はね、ルビィも嫌いにならなきゃいけないんだけど」。海を前に花丸と話すルビィは、そんな言葉を口にします。「お姉ちゃんが見たくないっていうもの、好きでいられない」から。そして花丸がスクールアイドルに興味はないと言えば、「じゃあルビィも平気」と答えてしまいます。

 一見、自分を持っていないのかな、誰かについていかないとダメなのかな、と考えてしまうこのシーン。でも、よく見てみると彼女は自分を持っているんです。スクールアイドルが好きなルビィは、中学生の時も図書室で一人、スクールアイドルの雑誌を見て目を輝かせていました。一人でも、大好きなものを追っている。見た目や言動に惑わされてしまいそうですが、彼女は自分の世界を持っていますし、誰かについていかなくても平気なのです。

 優しすぎる子なんだと思います。誰かと一緒にいないとダメなのではなく、誰かと一緒にいてあげられる子。好きな人のために、歩幅を合わせてあげられる子です。だから、大好きなお姉ちゃんと一緒にスクールアイドルを「嫌いにならなきゃいけない」。大好きな花丸と一緒なら「ルビィも平気」。

 大切な人とつながりすぎてしまうルビィ。しかしそれでは、自分のやりたいことがいつまでたってもできないことを、花丸は知っていました。

 

それは女神のように

 ルビィが自分と一緒にいようとするならばと、興味があるわけではないと言ったスクールアイドル部への体験入部をする花丸。階段でのランで一人遅れる自分を待つルビィに、花丸は至極ストレートにその思いを口にします。

「ルビィちゃんは、もっと自分の気持ちを大切にしなきゃ。自分にウソついて、無理に人に合わせても辛いだけだよ」
「ルビィちゃんは、スクールアイドルになりたいんでしょ? だったら、前に進まなきゃ」

 自分のやりたいことは何か。そのために必要なことは何か。今のままでいることは、楽なことです。階段の下で「こんな長い階段、走って登り切れるかな……?」と不安になるのは簡単。そこでくすぶる自分を倒し、一段一段登っていって、初めて見える景色がある。花丸は、それをルビィに見てほしかったのです。

 本を読み、「いつも空想をふくらませていた」せいでしょうか。花丸はこの年にして、他人のことをとても的確に捉え、言葉にすることができている。他人のことをよく見ています。そんな彼女から見たルビィは「すばらしい夢も、キラキラした憧れも、全部胸に閉じ込めてしまう子」。そして「その胸の扉を思い切り開いてあげたいと、ずっと思っていた」。それが花丸の夢だった。例え、自分の元からルビィを突き放すことになったとしても。

 

 一人階段を登っていくルビィを見届けた花丸は、2つのお下げについていくことなく階段を降りていきます。なぜなら、「もう、夢は叶ったから」。

 μ’sにも、ずっと一人で過ごしている子がいました。その子の夢は、9人みんなで、曲を作ること。9人が集まって、力を合わせて、何かを生み出すことでした。ラブソング制作を提案した彼女は、それが一旦頓挫してしまうも、それでもいいと話します。なぜなら、彼女の「夢はとっくに――」から。

 これで充分とばかりに、自分の世界に帰ろうとする2人。しかし、周囲の仲間がその手を掴んで離しませんでした。

 

 書店でμ’sの「本」を読んで、スクールアイドル部への体験入部を決めた花丸。彼女にとってスクールアイドル部にいた僅かな時間は、本の世界の出来事でした。だから、いざ「バイバイ」と言って本を閉じるその顔に浮かぶ心情は「読み終わった時、ちょっぴり寂しかった」。また、一人の世界に戻ってきてしまった。

 そんな花丸を、一人の世界から引っ張り上げようとする人がいました。それは「とても優しくて、とても思いやりがあって」、誰かとつながりすぎてしまう子です。

 花丸がルビィをよく見ていたように、ルビィも花丸をよく見ていました。スクールアイドルという“本の世界”にいた花丸は「うれしそうだった」。それはきっと、一人じゃなかったから。第3話で描かれたように、「ラブライブ!サンシャイン!!」での“スクールアイドル”は、つながることです。ルビィから見た花丸は、スクールアイドルが好き。つまり花丸が本当にやりたいことは、誰かとともにいる、誰かとつながることです。

 自分がやりたいことをやったルビィは、そうした人にしか、階段を登り切った人にしか見られない景色を目にしました。彼女は、その景色を花丸と見たかった。ルビィは、大好きなお姉ちゃんとμ’sを語り合った日のように、誰かと一緒に何かを楽しむすばらしさを知っています。だから、彼女は手を離さないのです。「ルビィ、スクールアイドルがやりたい。花丸ちゃんと!」と。

 その優しさゆえに、人とつながりすぎてしまう黒澤ルビィ。でもそんな彼女だからこそ、大好きな人の心奥に隠れていた「やりたいこと」を引き出し、背中を押すことができたのです。あの日、女神にラブソングをプレゼントした8人のように。