アニメ感想

近江彼方はなぜヴィーナスフォートのステージに立つ必要があったのかー「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第7話感想

スーパーでアルバイトをし、キッチンで食事を作り、ゆったりとした服装を身にまといながら微笑む近江彼方に、得も言われぬ人妻感を覚えて大興奮したのは私だけではないと信じたい。……そうよね?

今回のエピソードの中心になったのは、彼方と妹の近江遥の二人。スクフェスをプレイしていた人にとっては懐かしい顔ですね。2015年2016年 のスクフェス感謝祭を取材した際に、各学校の生徒たちのスタンディを撮影したことを思い出しました。当時は虹ヶ咲学園はなく、彼方も東雲学院の一員でしたね。

姉妹のすれ違いをある程度の強度で描きながら、最後はお互いに支え合うという結論に収まった今回。わかりやすいエピソードですが、姉妹の間にある“段差”が、二人の関係性の内側だけでなく外側にも生じていることがポイントとなった一話でした。

彼方と遥の間に生じた2つの「段差」

スクールアイドルの練習中であろうと、屋外のベンチだろうと、ところかまわず( ˘ω˘)スヤァする眠り姫・彼方。その原因は、多忙な母に代わって家事をし、家計を助けるためにアルバイトを掛け持ちし、奨学金をもらっているために勉強も手を抜かず、「つい楽しくて」スクールアイドルをがんばっているためでした。

すべて自分で請け負っているのは、遥が夢を追えるよう、余分な負担をかけないためでしょう。庇護の対象として、自分が遥を守ってあげなくちゃと思っていたのです。

ここにひとつの段差があります。すなわち、守る姉と守られる妹という段差です。別に見下しているわけではなく、遥が可愛いがゆえにそうなるものですが、彼方は妹を守ることを当然と思っていたはず。これといった不満もなく、むしろ自分の生きがいとすら感じていたかもしれません。

自宅で、食事のテーブルをはさみ、向かいに座る近江遥に笑顔を向ける近江彼方

しかし、そこに違和感を覚えたのが遥でした。さもありなん、姉がやっていることはすべて(家族とはいえ)他人のためです。忙しい母、贅沢ができるわけではないであろう家計、そして妹である自分……もっと彼方自身がやりたいことをやってほしいと思うのは、自然なことです。

そんな中で再開した虹ヶ咲学園のスクールアイドル同好会。「忙しすぎて倒れてしまうか心配で」同好会の見学に来た遥の目に映ったのは、自分のためだけに全力を出し、エンジョイする姉の姿でした。

ずっと他人のために時間と体力を使っていた姉が、スクールアイドル同好会だけは自分のためにやっている。遥なりに、これは絶対に守らなきゃいけないと思ったのでしょう。彼方の身を案じて、自分がスクールアイドルをやめると口にする遥。「もっとがんばるから」と言う彼方に対して、「わからず屋!」と返して部室を飛び出していきましたが、そりゃそうです。これ以上がんばってほしくないから自分がスクールアイドルをやめると言っているのに、もっとがんばると言うのですから。

姉が妹を守らなきゃいけないという、彼方の価値観の中にある二人の段差が、ある意味で一番はっきりとわかるシーンではないでしょうか。

スクールアイドル同好会の部室で、自分がスクールアイドルをやめると近江彼方に告げる近江遥

もう一つの段差は、作中で明確に語られているわけではありませんが、スクールアイドル部としての両校の差です。「あの東雲学院」と高咲侑が言っているのを聞く限り、東雲はスクールアイドルの世界ではなかなかに有名な様子。遥はその東雲で1年生ながらセンターを張るエース候補ときました。将来有望な存在です。

一方で虹ヶ咲学園のスクールアイドル同好会は、自称・部長いわく「圧倒的ダークホース」。校内でこそ知名度が上がってきたものの、校外ではまだまだといったところでしょうか。

有名校の次期エース候補1年生と、無名校の3年生。どちらかがスクールアイドルをやめなくてはいけない場合、事象だけを客観的に見て続けるべきはどっち?

……これが二人の間にある、姉妹とは別のもう一つの段差。この差を解消しにかかっているのが、今回の物語なんです。

彼方が教会広場のステージに立った理由

彼方は、遥がスクールアイドルをやめることを望んではいません。では遥が本当にスクールアイドル引退を望んでいるのかというと、それもまた違います。

「お姉ちゃんが背負ってきたものは、今度は私が背負うべきなんです」

もう「べき」って言っちゃっている時点で望んでいることじゃないんですよね。そうしなければならないと思うからしている。要するに、遥が向かおうとしている結末は、姉妹どちらにとっても「やりたいこと」ではないのです。

自宅の台所で洗い物をする近江遥

彼方は自らの言葉で、自身の思いを同好会のメンバーに打ち明けています。同好会が再開してからずっと楽しかったこと、やりたいことがどんどん増えたこと、一緒に目指す仲間がいることが幸せだったこと……。

このブログで何度も書いていますが、「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」においてスクールアイドルは「場所」です。彼方にとってのスクールアイドルは、「みんなとの同好会は、彼方ちゃんにとってもう、大事な、失いたくない場所」。すぐ再開できるように優木せつ菜が取り計らったとはいえ、一度は失った場所です。3年生である彼方は、このスクールアイドル同好会という場所の意義を、2年生や1年生以上に感じているかもしれません。

大切な場所は失いたくない。でも妹の幸せも守りたい。二兎を追うのはわがままなのかと悩む彼方に対し、背中を押したのは朝香果林でした。「それってわがままじゃなくて、自分に正直って言うんじゃない?」と話すのが、“キャラ”の仮面を外した果林というのがまたグッときます。

虹ヶ咲学園の中庭で、近江彼方を諭す朝香果林

遥は守られるだけの存在ではなく、自分と対等の存在なんだと気づいた彼方。この時点で姉妹の段差は解消されました。そして彼方は残るもう一つの段差を埋めにかかります。それが、東雲学院と同じステージに立つこと。東雲が強いからとか、虹ヶ咲は無名だからとか関係ない。東雲の1年生センターと同じステージに立つことで、姉妹としてだけでなく、スクールアイドルとしても対等であること――すなわち、ライバルであることを示したのです。

スクールアイドルという立場で、やりたいことを徹底的に追い求めて表現する生徒たちの姿は、過去のシリーズからずっと描かれています。加えて、スクールアイドル同士の公平性も然り。廃校寸前だろうがマンモス校だろうが、地方の高校だろうが都会の高校だろうが、同じ土俵――もとい、ステージに立てる。それがスクールアイドルのすばらしさであり、このすばらしさを彼方と遥の関係で描いたのが今回のエピソードではないでしょうか。

ヴィーナスフォートのステージ裏で向き合う近江彼方と近江遥

一人が背負うのではなく、二人が支え合う新しい未来を切り開いた近江姉妹。助け合い、高め合って遥か彼方の夢を目指す二人に、そうか、蝶は羽が2対あって飛べるんだと思うのでした。

POSTED COMMENT

  1. 椿(Chin) より:

    物語が外へ開く話でしたね。
    妹、他校。
    穂乃果がA-RISEに・千歌がμ’sに影響を受けたように、常に外からの刺激によって話が始まっていたシリーズでしたが、今作は同好会の中だけで進んでいたことに改めて気付きました。
    6話でひふみ・よいつむに相当する同級生が現れるまで、全くと言って良いほどストーリーに絡む人間が居ないんですよね(璃奈が部活中には素直に意見を言えていたのも、”同好会と言う箱” に入っていたからなのかもしれません)。
    “廃校の危機” もなければ、「ラブライブ!なんて出なくて良い!」などと、学校を背負う大義を持たない完全なる “個” の物語が、他校の存在を顕在化させることによって、どのように広がり、どのように着地するのか。あるいは、他の個や他の集団と、どのように関係性を持って行こうとするのか。
    と、ここで、唯一メンバーに絡んだ事がある他者=演劇部部長との話がやってくる構成の巧みさに舌を巻きます。

    せつ菜さんが、6話の舞台袖にいる時や今話での芝生で昼食を摂っている場面では “中川菜々” で居るのに、東雲学院の人と会う時には “優木せつ菜” として会っているところも、ちょっと気になるポイント。細かいと言うか、「内と外の話を始めるぞ」と言うスタッフの意思表示と見るべきか。

    • ばかいぬ より:

      確かに、話が進むにつれて外へちょっとずつ開いていっていますね。
      同好会の認知度が上がって他者が絡むようになり、校内、そして校外へと広がりを見せているのかもしれません。
      外的要因に左右されない、完全な内面からの物語ですよね。
      個人的には、サンシャインは外的要因に振り回されすぎた感も覚えていたので、こちらのテイストの方が好きかも……。

      8話にも通ずる話ですが、せつ菜も複数のペルソナを抱える(人間みんなそうなんですがw)人ですよね。
      中川菜々と優木せつ菜の使い分けを深堀りしたらおもしろそうです!

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