アニメ感想

スクールアイドルはいつもあなたのそばに―「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第13話感想

第13話は大きな変化も新たに生まれた問題もなく、1話から語られ続けてきたことの集大成となるエピソードでした。

この13話だけを見ても、「ラブライブ!」や「ラブライブ!サンシャイン!!」を追いかけたことのある人でしたら、なんとなく以前に経験したことがあるような出来事、感覚を思い起こすのではないでしょうか。

もちろん、鍵となったのは「あなた」の代弁者である高咲侑。彼女のパーソナリティやこの数ヶ月の間に起こった変化は、よくこれだけ捉えているなと思うくらい「ラブライブ!」ファンのそれでした。。だからこそ、終盤になって彼女に起きた変化、すなわちやりたいことの表出は、大きなポイントだったと思うのです。

好きであり続けることも自己表現

場所を作り、きっかけを作り、スクールアイドルたちのサポートを続けてきた侑が、今度は自分の夢を見つけて追いかけようとしている。

やっぱり、やってみることがすごいのだと思います。結果が出るかどうかはまた別の話で、何かを始めるというのは、やりたいこと(あるいはやるべきだと思うこと)が見つけられているということですから。ただひたすらにサポートするのではなく、きちんと自分の内側にフォーカスした結果、やりたいことが生まれている。それが彼女の長所ですよね。

じゃあ、それが見つからない時は? それも侑が示してくれています。彼女は最初から音楽をやろうと思っていたわけじゃない。けれど、好きなことに関わり続けることで自分の道を見つけました。

この子は本当に素直で、いろいろなことに興味、関心を抱くことができる。それもまた、虹ヶ咲学園のスクールアイドルたちがやろうとしていることと同じ「自己表現」のひとつです。誰かに何かを言われることなく、自分の興味関心に基づいて動き、好きなことや他人と関わり続ける。そうした結果、何かが見えてくる。

人間、一人でできることって本当に少なくて、自分が本当にやりたいことって一人で見つけたり、生み出したりできるものじゃないと思うのです。「自分のやりたいことを探そう」って簡単に言ったりしますけど、とても一人でできることじゃない。自分の外から訪れるきっかけ、ある程度以上の時間、そして誰かとの関わりが必要です。今やりたいことがある人も、元をたどればきっかけは誰かにもらった、という人が少なくないのではないでしょうか。

スクールアイドルは、その「誰か」になる。これが侑と虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会との関係によって描かれたひとつの結論であり、ある意味でμ’s時代の歩みの振り返りでもあります。要するに、ずっと語り継がれてきたことです。

周りよりも高いステージにいるからすごいのではなく、いち高校生――あるいは彼女たちを演じる駆け出しのキャストたち――が自分が出せる全力でやりたいことを追いかけているから感銘を受ける。その姿に、そばにいる人、応援する人は力をもらい、いずれ自分の夢を追いかけ始める。そんな周囲の人の姿に、スクールアイドルもまたパワーをもらっているのでしょう。この関係性が、シリーズを重ねることで誕生したスクールアイドルの、「ラブライブ!」の文化です。

それを象徴するのが、スクールアイドルフェスティバル後にメールや手紙をもらって次回開催への意気込みを強くするメンバーの姿そのものであり、上原歩夢の「始めて良かった」という言葉でもあります。心から思っていることがひしひしと伝わってきたあの言葉は、スクールアイドル側に立つ者としてこの作品を一言で表現したセリフだったのではないでしょうか。

やりたいことがはっきりしていなくても、自分の意志に基づいて動いてみる。誰かと関わってみる。そうやって何かやっているうちに、やりたいことが生まれる。だからこそ「やりたいと思ったときから、きっともう始まっている」のですよね。

それでも、虹ヶ咲は「ラブライブ!」だった

この13話を見ていて、ファンとの距離感の近さが虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の一番の魅力なのだと思いました。

スクールアイドルフェスティバルでのパフォーマンスも、自分の学校やスクールアイドル好きだけでなく、スクールアイドルに興味がなさそうな人たちまで巻き込んでいる。ステージに上がっていない間は観客や子どもたちと触れ合うかと思えば、ステージではそれぞれの個性を凝縮したパフォーマンスを披露しています。

結果、ファンからすると自分の嗜好にマッチするスクールアイドルが見つかったり、思わぬ掘り出し物ならぬ“掘り出しスクールアイドル”に出会えたりするのかもしれません。μ’sはスキがあるからこそ好きになる“町の定食屋”という趣でしたが、虹ヶ咲は子どもから大人まであらゆるお客さんに応じる“豪華なファミリーレストラン”といった具合です。誰もが気軽に立ち寄って楽しめる場所ですね。

でも、彼女たちはただ好き勝手やっているわけではありません。「どうせなら、たくさんの人に見てもらいたいじゃん」という侑の言葉にあるように、全力で準備してきたものを、がんばってたくさんの人にアピールしてやり切っているからこそ、人を惹き寄せるものが生まれています。それができたときの思いが、機材トラブルから復帰したときの宮下愛の喜びであり、合同パフォーマンスをやり切った中須かすみの安堵であり、盛り上がるステージの裏手を歩く侑の「最ッ高!」なんですね。この一連のシーンには、何かをやり切ろうとしている人の思いが全部詰まっています。

だからこそ、最後の最後までやり切りたい。開催がゴールなのではなく、閉幕がゴールです。突然の雨で催しが中断し、パフォーマンスができる時間を超えても、思いがまだ残っているから終わらない。

「まだ、伝えたいことがあるから」という歩夢の言葉は、歩夢一人の思いでもなければ、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会だけの思いでもありません。スクールアイドルみんなの思いであると同時に、このお祭りに訪れた人々みんなの思いでもあります。

スクールアイドルからみんなへ、みんなからスクールアイドルへ。虹の架け橋を通じて思いが行き来する「場所」が、スクールアイドルフェスティバル、ひいてはスクールアイドルという文化そのものです。気持ちを交わすことで、私たちも、スクールアイドルも夢への一歩を踏み出せるようになる。それはもう、スクールアイドル黎明期に誰も彼もを巻き込んだ一大イベントを開催した彼女たちのころから続く、蜜月の関係です。

たとえ外伝的作品であろうとも、最高に「ラブライブ!」している。それが「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」でした。

POSTED COMMENT

  1. 椿(Chin) より:

    最終話までの感想、お疲れ様でした。そして、ありがとうございます。
    μ’sはスクールアイドルの素晴らしさを示してくれました。
    「μ’sが凄いんじゃない。スクールアイドルが凄いんだ」と。
    映画版ではそれに呼応する形で全国のスクールアイドルが集い、μ’sを中心としてSDSを歌いました。
    サンシャイン!!ではその精神を継承し、スクールアイドルの楽しさを表現するのにグループの垣根など関係ない事も示してくれました。
    それを観て、自分にも「まだ立ち止まるのは勿体ない」という思いが湧き上がってきましたが、既に高校生でもなければ、男ゆえに女性だらけのあの世界でスクールアイドルになる事も叶わず、何をなすべきか困惑していたのも正直な感情でした。
    でも、虹ヶ咲では「スクールアイドルが凄いんじゃない。大好きを全力で楽しむのが凄いんだ。そんなみんなが凄いんだ!」が強く描かれました。
    あぁ、このシリーズは “スクールアイドル物語” ではなく、 “Love LIVE!(ワクワクするのが大好き)” であったのだな、数多ある作品の中で強く惹かれた理由がここにあったのだなと、改めて気づかされた次第です。

    虹と言えば “七色” 。
    しかし、西洋では四色と表現されているとか聞いた事があります。国によっては12色とも。
    本作のEDや浦の星の校舎に遺されたような 絵画的に塗り分けられた虹と違って、太陽光に照らされる虹は綺麗なグラデーションを描き、見る人によって印象を変えます。
    “虹ヶ咲” と言う作品名は、ソロアイドルの「個」を象徴する意味で「多色である」事を表現したモノだと思っていました。
    でも、虹は単色では弧を描けない。
    皆が寄り添い・溶け合って初めて天を駆ける事が出来る。
    個でありグループである。九人だけでなく、侑を含む十人だけでもなく、 “あなた” も “みんな” も集まって一つの虹となる。
    そんな寓意だったのかも?なんて思うようになっています。

    • ばかいぬ より:

      終わってみれば、過去2作品で語られていたことを継承しつつ、
      本作ならではの結論を描いてくれた作品だったなと思います。
      LIVEをLOVEする、生きることを愛するということを、現代の価値観に寄り添いながらも前向きに描いてくれましたね。
      一人ひとりの「色」を表現しつつも、ただそれで終わりなのではなく集まることでもっと大きなことができるし、
      一人では解決できない問題も解決できるようになる。そんな姿がさらに多くの色を惹き付けていくのでしょう。
      虹ヶ咲の虹は無数の色が集まっているような感じがしますよね。

      こちらこそ、毎回コメントをくださって本当にありがとうございました!
      自分とは異なる見方や知識を持っている人と語り合うと、やはり勉強になります。
      もし2期がありましたら、またぜひ遊びにいらしてください!!

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