めちゃくちゃ「ラブライブ!」でしたね。劇伴の使い方といい、セリフの密度やテンポといい、すんごい「ラブライブ!」。特に劇伴は顕著で、どんなシーンでどんな音楽が使われているか気にしながら見るとおもしろいと思います。正伝とは異なる作りをしていたアニメ虹ヶ咲(の1話)と比較すると、両者の良さがより深くわかるはず。

そんな1話で、飛んだりはねたり歌ったり、泣いたり走ったり悩んだりな主人公・澁谷かのんを深堀りしていきましょう。ご多分に漏れず注目するのはヘッドホンなのですが、あれは単に「周囲の声を遮断してます、終わり」じゃないんですよね。

家で飼っているコノハズクに声をかける澁谷かのん冒頭でやさぐれ主人公感を見せつつ、コノハズクのマンマルに対する態度で違う一面をすぐさま被せてくるのがニクい
通りかかった猫にお礼を言う澁谷かのん猫にだってちゃんとお礼を言う

それでもかのんは聞いてしまう

「制服、似合ってるわよ」という母からのせめてものフォローを背中に受けながら、高校生としての1歩目を踏み出したかのん。家を出るやいなや「これで何も聞こえない」と、ヘッドホンを装着します。それでも聞いてしまうのが、かのんという女の子なのです。

聞いてしまうものの一つは、周囲の声。結ヶ丘の音楽科に合格した同級生とはちあうと、彼女はすぐさまヘッドホンを外して会話しています。

もう一つは、誰も見ていない場所で歌う自分の声。ヘッドホンをしていると、耳から入る自分の声は聞こえなくなりますが、体の内側から響く自分の声はむしろ聞こえやすくなります。かのんは歌で挫折したけれど、歌が嫌いになったわけじゃない。どうしたって離れられないものなんですよね。

ひと気のない通りで思う存分歌う澁谷かのん歌は彼女にとって癒やしでもある。

登校時〜教室を出たあとの唐可可との追いかけっこまで一連のシーンを見ていると、周りの人を遠ざけたいかのんと、放っておいてくれない他者、という構図が浮かび上がります。

とにかくヘッドホンを装着しようとするたびに、誰かに話しかけられる。しかもみんな歌のことを話題にしてくる。「かのんちゃんの歌が好き」「続けるんでしょ?」。しまいには、夢は猫を飼うことだっつってんのに「スバラシイコエノヒト〜」とスクールアイドルに勧誘してくる。まるでスーパースターですね。

かのんがこうなるのはなぜか。根本的に、かのんは他者に心を開いているからです。

象徴的なのが、葉月恋とのやり取り。可可がスクールアイドルの勧誘を咎められたところで、傍観者であったはずのかのんは「やりたいことをやれない理由を話すべきだ」と抗議します。

結局、ヘッドホンは自身への拘束具みたいなもので、でもかのんはそれを引きちぎってしまうんですね。周囲の声も、自分の内なる声も聞こえてしまう……というより、むしろ聞きにいっている。人情味があって、めちゃくちゃ優しいヤツ。それがかのんの本質です。可可に事情を打ち明けたのち、(自分が歌えないとしても)夢を追う可可に協力を申し出るあたり、その本質がよく表れていますね。

スクールアイドルの勧誘をとがめる葉月恋に対し講義する澁谷かのん音楽科の制服を着る者と、普通科の制服を着る者の対比という構図。かのんの言葉は、自分たちはやりたいことができないのか、という叫びにも聞こえる。
「あなたもやりたいのですか?スクールアイドル」と問われ、答えに窮するかのん。とまるところのない蝶が、彼女の心を表現している。

理由には覚悟が宿る

街頭ビジョンにスクールアイドルが登場し、詳しくない人も「学校でアイドルってやつでしょ?」と口にする。作中の社会では、スクールアイドルはとっくにキャズムを超えているようです。

そのスクールアイドルを志す可可という人もいれば、音楽科には歌や楽器、ダンスに打ち込む生徒たちが集まっている。結ヶ丘という限られた空間の中でも、価値観が多様化しています。

となると、数あるアクティビティの中で「なぜスクールアイドルをやるのか」がなおさら重要になってくる。歌が好きだからといって、それがスクールアイドルをやる理由にはならないのです。かのんがスクールアイドルをやることに逡巡するのは、肝心な時に歌えないことに加えて、この点のミスマッチもあるように思います。

そのかのんの心を動かしたのが、可可の言葉。彼女の気持ちは「スクールアイドルがしたい」から、「どうしてもかのんさんとスクールアイドルがしたい」というふうに変わっていきました。

「歌が好きな人は、心から応援してくれます」。自分の夢を応援してくれるかのんに惚れ込み、そんなかのんだからこそ一緒にスクールアイドルをやりたい。

かのんから事情を聞き、人前で歌えない彼女を一度受け入れていることがポイントです。可可には勢いがあるけれど、ノリと勢いで言っているんじゃない。可可には、それでも誘う覚悟がある。

校舎の前で澁谷かのんを必死にスクールアイドルへと誘う唐可可スクールアイドルは応援される人でもあり、応援する人でもある。

おそらく失敗するごとに周囲をがっかりさせ、そんな自分に絶望し、幼いころから挫折を繰り返してきたかのんが可可の言葉を拒絶するのは、決して身勝手なものではないでしょう。ゆえに、「本当にこのままでいいの?」と自問したのち、弾かれるように戻っていくかのんの姿からは、並々ならぬ覚悟が感じられます。これだって、勢いだけじゃない。リアリスティックな思考の末に未来を選ぶかのんから、今の彼女なりの決意がひしひしと伝わってきます。

で、やっぱりヘッドホンを外しちゃうんですよね。かのんは、自分の声も、他人の声も聞き逃すことはない。「好き」は自分を裏切らないし、「好き」が未来を切り拓いていく。夢は、歌でみんなを笑顔にすること。失われかけていた、澁谷かのんの青春のスタートです。