1期から、津島善子のたくましさは際立っていました。13話の感想でも書きましたが、彼女は強固な自分の世界をもっていて、それをどんな時でも展開できる。自分の「好き」に対する情熱が凄まじいのです。
それだけに、自分の世界と世間一般の常識との境目で迷うこともありますが、これも情熱ゆえのこと。外に出ては雨に降られる、転ぶ、何をやっても自分だけうまくいかないと悪いこと続きの中で、「きっと、私が特別だから見えない力が働いているんだって」と考えられるのはすごいことです。
しかも、これは恐らく今よりもさらに幼いころのこと。その歳で“ラブリー変換”ができている。ハンバーグに刻んだピーマンを混ぜるように、世界を調理している。受け入れやすいように、食べやすいように。
善子とあんこの出会いは、そんな「悪いこと」のさなかでした。車に相乗りして帰るAqoursメンバーをよそに、強風と雨のなか、家が近いからと一人歩いて帰る善子。ほどなくして突風で傘が飛ばされ、あっという間にずぶ濡れに。しかもなかなか傘を捕まえられません。
普通なら、がっくりとくるシチュエーション。でも、彼女はお構いなしに自分の世界を展開します。傘が飛ぶのも、びしょ濡れになるのも、傘が捕まらないのもすべては私が「堕天使ヨハネ」だから。要は、「堕天使ヨハネ」は善子の黒魔術ならぬ“処世術”なんですね。
逆に言えば、傘が飛び、雨に濡らされるのはやっぱり悪いことなんです。それを「堕天使ヨハネ」でガードしている。しかしその中で「偶然」良いことが起きた。それが、あんことの出会いでした。
悪いことには「自分が特別だから」と理由をつける善子は、当然良いことにも理由を見出そうとします。それが「運命」。彼女が運命にやたらこだわるのは、これが原因です。つまり、運命を否定したら、自分が特別であることも否定することになってしまう。そうすると、彼女が自身を守るために作った“イージスの盾”が壊れてしまう。
あんことの運命を頑なに信じるのは、善子なりの自己肯定なんです。
では、“あんこ騒動”に巻き込まれた桜内梨子は、善子とあんこのつながりをどう見ていたのでしょうか。彼女は、「見えない力はあると思う」と話しています。善子、そして梨子の、もう一度あんこに会いたいという気持ちの力。言うなれば「思いの力」でしょうか。
おもしろいですよね。高海千歌を励ますために「ここまでがんばってこれて良かったと思ってる」という言葉を使い、3話では「私たちは、キセキは起こせないもの」とリアリスティックな発言をしていた梨子が、思いの力を信じている。それは、実際に「キセキ」を起こしたからかもしれません。
しかし、もっと遡ると、梨子が今ここにいるのも思いの力ゆえのことです。どうにかしてもう一度ピアノを弾きたいと思い、東京から内浦にまで引っ越してきた。悪いことが起こるのを善子が「自分が特別だから」と理由づけたように、梨子もまた「海の音を聞けばピアノを弾けるようになる」と解決の糸口を探し、毎日のように浜辺に通っていました。そして、千歌と出会い、今がある。
それは、本当に心が折れかけていた一方で、もう一度ピアノを弾く自分を信じていたから。
特別な自分を信じるように、ピアノが弾ける自分を信じていたから。
善子は、本当にあんこを連れ戻せるとは思っていなかったかもしれません。でも、もう一度会いたかった。会って、運命を証明してみせたかった。そこに梨子は乗ります。「考えてみたら、帰っちゃったら本当に出てきた時に会えないなって」。それは梨子による、善子の肯定です。
もう一度あんこに会えたのは、善子が思いを強く持ち続けたから。信じる力が実を結び、誰かと誰かを引き寄せる。思い描いていた結果でなくても、そこにはきっと意味がある。あんこにあげられなかったクッキーが、苦手なしいたけとの架け橋になってくれた。だって、私はあなたと仲良くなろうと思っていたんだもの。
「そう思えば、ステキじゃない?」
一昨日の版(11/6夜)NHKの『100分 de 名著』を見ていました。
今月の名著はラッセルの『幸福論』です。
詳細はNHKの公式HPに譲るとしますが、その中で述べていた「人々を不幸にする原因」と「幸福になるために行なったこと」が、今回の5話及びばかいぬさんの感想と重なった部分がありましたもので、興味深く両方を見ていた次第です。
乱暴に要約すると──“ラブリー変換”が“肝”なんですよねw
変に“不幸自慢”をするのではなく、「自分が特別だから」と理由づけ、良いことも悪いことも「運命」とする。
それでこそ“善子”であり“ヨハネ”なわけで、1期第5話でも千歌達はそんな“ヨハネ”を肯定し、受け容れていました。
今回の話では、別にAqoursのメンバー達がそんな善子の在り様を否定したわけではないですが、より理解できる一幕に(梨子が代表して)触れた─そういうお話しだと受け止めました。
「偶然」と「運命」という二つのキーワードがお話の中で出て来ていました。
実は果南が言った「想いが繋がって、“偶然が重なって”ここまで来たんだもん」というセリフに最初「ん?」と引っかかったんですよね。
まぁ、果南自身はそんなに深い意味で「偶然」という言葉を使ったわけではないのでしょうけど、穿って見ると、演出上善子や梨子が言う「運命/見えない力」との対比のために言わされた感を感じ取っていたのだと思います。
ラストシーン、梨子が「もしかして、この世界に偶然て無いのかも」と言ったことに、やはり演出上の意図もあったのでしょうけど、それ以上に「偶然」も人と人とが出会い、干渉し、影響し合って、繋がって結果として起きていることだと思えれば確かに素敵なことですし、これって究極な“ポジティブ・シンキング”ですよね。
果南も「想いが繋がって」と言っている通り、重なった偶然を偶然のままに終わらせるつもりがないからこそ、後悔しないよう、やりきった!と思えるよう、きっと妥協したくないのだろうし、みんなの想いが重なる新しいテーマを『見つける』ことを信じているんでしょう。
巷の感想で上記の「偶然」の扱いでなんやかんや書かれているのも目にしましたが、梨子のあのセリフは否定しているわけではなくモノの見方を変える“ラブリー変換”の話をしているってこと。
次回の『Aqours WAVE』では、どんな“ラブリー変換”を魅せてくれるのか、また楽しみです。
>拓ちゃんさん
その番組、めっちゃおもしろそうですね! 今度見てみようかなぁ。
おっしゃるとおり、ポイントは「受け入れ方」です。善子はここが抜群にうまい。
いい意味で自分の都合よく見ることができる。それを“ラブリー変換”と言っていますw
偶然も、別に偶然と見てもいいんですよね。何ら問題はない。
けど、敢えてそこに意味を見出すことで、大事に思えたり、何かを乗り越えようとする力になったりする。
そんなふうに見たら、些細なことでもキラキラ輝いて見えるんじゃない?
と梨子は言いたんだと思いますね。
次回はまた新曲出るんでしょうか、楽しみです!
遅くなりました!
第5話、個人的にこういうお話大好きです。
人の内面を描く物語は、何度も見直していろいろ考えたくなります。
実は5話を観た後、私もいろいろお話を読み解いていったのですが、
それを吐き出す場がなかったもので、いっそ小説で書いてしまおうと思い、先程書き上げた次第w
その執筆にあたり、ばかいぬさんの感想が考えを纏めるのにとても役立ってくれて。
ますますばかいぬさんに足を向けて寝られなくなりましたw
本当にいつもありがとうございます。
果南と梨子が「偶然」という言葉に対しての考えを語っていたところ。
一見すると果南の考えを、梨子が否定しているように聞こえがちですが、
私は二人は同じものを見ているのだと、そう感じました。
どちらも「見えない力」が引き起こした事象で、それをどう感じるかが違うだけ。
(※そんなところを主軸として上のSSが生まれたのですが…)
観ている分には梨子のまとめのセリフでストンと理解できたように思ったのですが、
改めて考えていくと、とても難しい題材を扱っていたのだなぁと驚きます。
Aqoursの中であまり他人と接する機会が少なかったであろう梨子と善子。
特によしりこおじさんではなかったのですが、この二人はいいコンビですね。
今後もこの二人の “姉妹感”(健全) が表面に描かれると嬉しいです。
次回も楽しみにしています。
>たくみさん
小説読みました! 状況説明とモノローグのバランスが良くて、
とても読みやすかったです(*´∀`*) お話の間を補完するお話って良いですねぇ……。
少数ではありますが、たくみさんのように考察を創作の参考に
してくださる方もいらっしゃるのですが、とてもうれしいです!
こちらこそ、ありがとうございます。
本当に難しい題材ですよね。扱っているものはずっと同じなのですが、
それをいろんな角度からいろんな手法で描いているのが、
今期の「ラブライブ!サンシャイン!!」だなあと思います。
きっと、梨子の世界も善子の世界も広がったでしょうね!
>ばかいぬさん
読んでくれてありがとうございます!
感想まで貰えて嬉しくて小躍りしてます。
蛇足ですが…
そう、私は善子の世界を「ほんのちょっとだけ」広げてあげたかったんです。
出逢いが成長を促すストーリーって大好きなんですが、善子に焦点を当てた時にそれが見つけられなくて。肯定はされたけど、それは成長じゃないなって。
(※私の読解力が未熟だからかもしれませんが)
だからあの雨の日の出逢いがまだ小さな善子の世界を広げてくれたとしたら、それを先に成長した梨子の手助けで出来たとしたら素敵だなって。そんな願望で書いたお話でした。
ちゃんと気付いてもらえて、それがめちゃくちゃ嬉しかったです。
ありがとうございました!(*> ᴗ •*)ゞ