ラブライブ予備予選を突破したAqours。PVの再生数も15万回を突破しており、コメントも好意的です。予選の好成績で学校の名前も広まるはずでしたが、しかし9月に予定されている学校説明会への参加希望者はゼロのままでした。
μ’sはこの時期には既に廃校を阻止していたと渡辺曜から聞いた高海千歌は、自分たちはどうすれば廃校を阻止できるのかと悩みます。「東京みたいに、放っておいても人が集まる場所じゃないんだよ、ここは」と松浦果南は場所を一因としますが、千歌はその上でスクールアイドルをやっていると言って聞きません。
ついには、一人で考えると飛び出していった千歌。彼女の中途半端を許さない性格が、のちにAqoursを本当の意味でμ’sたらしめることになります。
μ’sとA-RISEの背中
「あの時は、自分とそんなに変わらないって、普通の人たちががんばってキラキラ輝いているって。だからできるんじゃないかって思ったんだけど」
「自分と変わらない」ように見えるということは、自分と比べているから出てくる結論です。比べた上でできると思ったのにできないから、現実とのギャップに悩む。千歌が、μ’sと同じ存在になろうとしているのが伺えます。
μ’sと同じになるための答えが見つからない千歌は、レジェンドと自分たちの違いを実際に目にしようと、再び東京へ行くことを提案。かくしてAqoursは再び東京の地を踏み、Saint Snowとの再会を果たすのです。
Aqoursと再会したSaint Snowは、その表情こそ平静こそ保っているものの、予備予選で結果を出した内浦のスクールアイドルに対してライバル心を隠しません。姉妹揃って「勝利」に執着しています。A-RISEを見てスクールアイドルを始めた彼女たちは、A-RISEのすごさと違いを理解するためには、勝ち続けて同じ景色を見るしかないと結論づけました。この実にストイックな姉妹は、A-RISEになりたいのです。
「勝ちたくなければ、なぜラブライブに出るのです?」「μ’sやA-RISEは、なぜラブライブに出場したのです?」。鹿角聖良は、あの2組が勝ちたくてラブライブに出場したと思っています。
μ’sの思いと桜内梨子
梨子の提案で音ノ木坂学院に訪れたAqours。長い階段を駆け登った先に広がる景色には、桜ではなく、夏の緑が舞い落ちる校舎が佇んでいました。
μ’sがラブライブに出場し、奇跡を起こして残した校舎。しかし、その中に彼女たちは、何も残していかなかった。モノがなくても、心がつながっていればいいというμ’s。実に彼女たちらしい結論です。
音ノ木坂学院をもう一つの母校とする梨子には、ピアノの発表会でひとつの音色も奏でることなくステージを後にした過去があります。単に自分の曲をどう弾けばいいのかわからなくなっただけでなく、音楽の才能を期待されて音ノ木坂学院に入学したことから来るプレッシャーが重くのしかかっていたのです。
言うなれば梨子は、「音ノ木坂学院」に囚われていた。しかしそこから離れて新しい世界、仲間、エネルギーを得たことで、ようやく自分の足を掴んでいた「音ノ木坂学院」を振り切ることができました。そして結果を出した彼女は、安心して音ノ木坂学院を見つめることができます。
「音ノ木坂学院」はすなわち「μ’sが残したモノ」です。梨子が「音ノ木坂学院」に囚われていたように、μ’sが残したモノに縛られている人はごまんといるでしょう。大好きで、憧れて、普通の私でもできるんだ、あんな風になりたい。自分でもできると思って始めるのに、できなくて悩む。
でもμ’sは、そうでなくていいと言います。自分たちの後を追ってほしいんじゃない。そういう意味での「自分たちのように」ではなく、好きなこと、目標にしていることに真っ直ぐに進む。そんな「自分たちのように」を、彼女たちは望んでいるのではないでしょうか。
だから、ただ心がつながっていればいい。好きだった気持ちを大切にしてくれたらいい。梨子は自分にプレッシャーをかけ、悩み続けていましたが、音ノ木坂学院を忌み嫌うことはありませんでした。「私、この学校が好きだったんだ」という気持ちを、大切にしていた。梨子は音ノ木坂学院と、実に良い付き合い方をしました。
おそらく意識はしていないでしょうが、同じことに2年前に気づいていたのが果南です。「学校は救いたい。けど、Saint Snowの2人みたいには思えない。あの2人、なんか、1年の頃の私みたいで」と語るように、果南は浦ノ星女学院が廃校の危機に瀕した時、“μ’sのようにラブライブに出て学校を救う”ためにスクールアイドルを始めました。
しかし必死にμ’sの背中を追い続けた結果、小原鞠莉という大切な人の未来を奪いかけていたことを知ります。果南は、μ’sが残したモノよりもずっと大切なモノに気づいた。だから類まれなるメンタリティを持って、ステージで歌わなかったのです。
大切なのは、μ’sの背中を追いかけることじゃない。誰かと比べることなく、自分の気持ちが指し示した目標に向かって自由に走ることです。音ノ木坂学院の生徒でありながらμ’sを知らなかった梨子。でも、μ’sを知らないゆえに、μ’sが残したモノに囚われることなく、自分の大好きなこと=ピアノを追いかけていた。そう、梨子はμ’sを知らなくても、μ’sのように輝いていました。だからあの時、彼女の音ノ木坂学院の制服に、白い羽根が舞い落ちてきたのです。
コンサートを終えた梨子は、立派なトロフィーを贈られるほどの結果を残しました。しかし電話越しに千歌から「ピアノの方は?」と問われた梨子は、入賞、あるいは優勝といった“人と比べた結果”ではなく「うん、ちゃんと弾けたよ」と答えています。例え存在を知らなくても、桜内梨子はμ’sの精神を受け継いでいたのです。