これまでこのアニメは1話ずつ時間を使いながら、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会メンバーの一人ひとりが自身と向き合う様子を描いてきました。
その中で、この同好会のスクールアイドルとしてのあり方に触れるシーンもあったのですが、当時はあくまで「それぞれがソロアイドルとして活動する」という形を決めたものでした。
集団というのは個の集まりですから、個がどのような存在であり、自分の属する集団をいかに認識するかで、その集団のあり方が変わります。
それぞれの“お当番回”のラストであったこの9話は、朝香果林回でありながらも、一皮むけた個が集まった虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会とはどのような集団なのかが描かれたエピソードでもありました。
外へ広がる活動、膨らむチャンスとプレッシャー
桜坂しずくが出演した合同演劇祭の舞台を見た藤黄学園の綾小路姫乃が、「ダイバーフェス」出演の誘いを携えて虹ヶ咲学園にやってきたところから物語は始まります。PVや天王寺璃奈のライブで校内の注目度が増したスクールアイドル同好会。同じように校外でも、さまざまな活動を経て興味関心を持つ人が増えているようです。
当初はイメージ映像的に使われていた各メンバーのライブシーンでしたが、璃奈のライブから現実に行われているパフォーマンスとして描かれてきました。ジョイポリス、教会広場、合同演劇祭、そして今回のダイバーフェスと、会場の規模も観客数も回を追うごとに増していきます。
璃奈が突破口を開いたのをきっかけに、学園の外に外にと広がっていったスクールアイドルとしての活動。多分、本人たちは意識せず、やりたいこととスクールアイドルを両立させていっただけでしょうけれど、彼女たちの活動が校内のみならず校外にも影響するようになった証拠が、今回舞い降りてきたダイバーフェス出演という大きなチャンスです。
ただし、フェス中のスクールアイドルパートとして用意された3曲分の時間を、東雲学院を含めた3校で分け合う形での出演です。つまり1校につき、披露できるのは1曲ということになります。
これまでのエピソードでは、一度消えてしまった同好会という場所を取り戻し、果林含めメンバーそれぞれが弱さを乗り越え、あるいは受け入れて、スクールアイドルに対する自身の向き合い方を見つけました。その上で今回は、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会がどのようなソロ集団でいるのか、そのあり方を個々の成長を経た上で改めて示そうとしています。
だからこそ、1校1曲だからといって「じゃあ今回だけグループ曲で……」ということにはならない。ソロアイドルとして活動するというのは、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会にとって我々が見ている以上に重い、核となるあり方だとわかります。そう変えられるものではないのです。
となると、1曲の枠を9人で争うことになります。最初からそれを覚悟していたのが果林でしたね。
弱さだけじゃない。描かれる朝香果林の強さ
スクールアイドル同好会に加入する前からそうでしたが、果林は遠慮をしません。これを言ったら場の空気が悪くなるのでは……ということも、言うべきことならば言います。
もともと、ソロアイドル形式をメンバーに提案したのは優木せつ菜と中須かすみでしたが、この二人の嗜好のズレがきっかけで同好会は一度解散しています。だからこそ、それぞれの嗜好とやりたいことを突き詰められるソロアイドルという形が、この同好会にとって重要なのです。
ただ、消極的な見方をすれば、ソロアイドルというスタイルは互いの衝突を極力避けるやり方とも言えます。それだけ、一度は同好会解散にまでつながってしまったあの出来事は、彼女たちの中に強く残っている。
果林は、その出来事を当事者として経験していないメンバーの一人です。彼女にとっては、解散につながった過去の出来事は――いくら親しい友人のエマ・ヴェルデが当事者だったとはいえ――関係がない。ゆえに、もともとのパーソナリティも相まって遠慮せずに突っ込んでいけるんですね。
物事には表裏が必ずあるもので、ソロアイドルのスタイルは衝突を避けるやり方であると同時に、衝突せねばならないやり方でもあります。おそらく果林はそれが見えていて、覚悟もできている。読者モデルとはオーディションなどを通じて選ばれると聞きますが、そういった世界を勝ち抜き、ファンがいるほどのポジションを得ている果林だからこそ持つ強さです。
わずか1曲という虹ヶ咲の代表枠に誰が立つのか、それは遠慮や運で決めるのではなく、全員が納得した上で選ぶべきだと果林は考えたのではないでしょうか。遠慮や運で出演したとしても、それはソロアイドルとして勝ち取ったとは言えない。仲間であろうと戦う時は戦う、それがソロアイドルだと果林は言っているのです。
グループを選ばなかったからこそ得られるもの
グループであることを選ばなかったからこそ、失うもの、得られるものがあります。例えば今回のケースのように、パフォーマンスできる枠や時間が限られている場合、9人全員がステージに立つことは難しいでしょう。メンバーの大半がステージに立つ経験を失うことになります。その代わり、同好会内という身近にライバルがいることで、彼女たちは常に刺激を受け、モチベーションを保ち、成長の機会を得ることができます。
しかし、そのソロアイドルであることのメリットを享受するためには、お互いが切磋琢磨して本気でぶつかる必要があります。それが虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会に課せられた条件です。
果林の言葉もあって、ソロアイドルとしてあるべき姿に立ち返った結果、メンバー全員が立候補。自分以外のメンバーを推薦する形を取った末に、ダイバーフェスのステージには果林が立つことになりました。
姫乃に対し強気に所信表明をした姿とは裏腹に、急激に大きなプレッシャーを感じて萎縮してしまう果林。これもソロアイドルの怖さですよね。ソロでやるということは、アウェイの大観衆の前であろうと一人でステージに立たないといけない。知名度もないのに受け入れてもらえるのか、ちゃんとパフォーマンスできるのか。ましてや、今回は実力で呼ばれたわけでもない――。
人前に立った経験がある方ならわかるでしょう。覚悟していようと、怖いものは怖い。自身が感じている恐怖を「ビビってるだけよ」と素直に表現する果林に対し、1枠を争ったメンバーは優しい声をかけ、温かい手を重ねて鼓舞します。果林が言ってくれたことが、同好会にとって大事なことだったとわかっている。一人でステージに立つ怖さを知っている。だから率先して声をかける。
ライバルだからといって、競い合った相手だからといって、助け合わないわけじゃない。一度代表を決めたら、あとは応援する。支える。励ます。果林も自分も「同じ」虹ヶ咲学園スクールアイドル「同」好会なのですから。
メンバーの優しさに思わず涙ぐむ果林。彼女が弱さを見せる怖さを乗り越えて得たものは、とても大きなものでした。すなわち仲間であり、ライバルである存在。目指すものは違えども、互いにありのままの姿を見せ合い、高め合う人たちです。
それこそが、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のあり方。それぞれが自己実現をするために、スクールアイドルというとてつもなく懐の深い、何でもできる部活に取り組む。その中で競い合い、助け合って成長していく。目指すものが違うソロアイドルでも、手を取り合うことはできる。虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会は、集団としての新しいあり方を示したスクールアイドルなのです。
田中仁氏が手掛けたGo!プリの中に、プリキュアの資質がありながら既に売れっ子モデルとして精一杯働いているために、仲間になる事を固辞する話があります。
その話の中で、彼女は辞退する理由を示すために主人公を仕事場に連れて行きます。撮影現場で「(あなたが)可愛く映っている」と褒める主人公に対して「モデル自身ではなく、商品が可愛く見えなければダメ」と返し、プロフェッショナルである事を強調するシーンがあります。
果林さんも、モデルとして商品を魅せる仕事は数多くこなして来ているのでしょう。大舞台のランウェイで衆目を集める事も経験しているのでしょう。しかし、ライブと言う “自身を表現” する場は恐らく初めて。それがソロで、しかもアウェイ。更に言うなら、モデルとしてそれなりに知られている事実はアドバンテージではなく、「あの朝香果林とは、実際はこの程度の物なのか?」と言われかねないプレッシャーとなるのでしょう。ビビらなかったら、その方がどうかしてる。高校生らしい等身大の朝香果林が描かれていたように思います。作画も、今までより若干幼さを感じさせるように見えましたし。
今回、地味に気に入った所はゲーマーズでした。無印9話でも、スクールアイドルグッズを売る店の話が出ますが、μ’sの時は肖像権ガン無視の怪しい海賊版的グッズだったのに、今回は素性がハッキリした店で売られる “正規品” になっているのですよね。あの世界の時間軸がどうなっているかは定かではありませんが、ラブライブ!(スクールアイドル)と言う物が認知されるようになっているのだなと感慨深く思います。
更に言うなら、そのシーンでの「あなた(せつ菜)のグッズは無いの?」「え?無いですよぉw …ちょっと、悔しいですけどね」と言うやりとり直後の果林さんの表情が好きです。自分が一目置いている せつ菜 でさえ土俵に上がれないスクールアイドル界の層の厚さに驚いているような、せつ菜の本気を改めて感じ取ったような。
自分が未履修なもので、椿さんのGo!プリ談は勉強になります!
確かに、あの場面で「朝香果林」という存在がそれなりに知られていることって結構なプレッシャーですよね。
自分の意志で新境地に挑戦したものの、蓋を開けてみれば期待はずれ……ということもありうる中で、
あのアウェイ空間はものすごい逆境だったと思います。
ゲーマーズでの果林の表情、私もメモに残していました!
あの一瞬見せるハッとした表情、せつ菜の言葉に「あ、コイツやっぱり本気やん」みたいな感じを受けましたよね。
あんなふうにグッズ化されるほどスクールアイドルがキャズムを超えている世界だと、
他人のキラキラした世界がSNSで可視化されている現代みたいに「自分なんかがスクールアイドルなんて……」と思う人もいそうで
ハードルが上がっている感もありますが、それでも大会など関係なしにやりたいことをやる、というあり方を示す
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の存在は意義があるように思います。