イベントレポート

メンバーとファン、互いの“信頼感”が成立させたライブ「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 2nd Live! Brand New Story」

よくスポーツ選手が「ファンの声援のおかげ」という言葉を口にします。ファン・サポーターの声援が、自分を後押ししてくれたのだと。僕は観衆の中でプレーしたことがないのですが、幸いなことにお客さんの前でライブを披露したことがあり、スポーツ選手が言うことは多分、その時の感覚に近いんだろうなと思っています。

やっぱり、お客さんから声援を受けたり、みんなの笑顔を見たりすると、いつも以上の力が出るんです。肯定されているというか、受け入れられているというか……心理的安全性ではありませんが、安心感をもってパフォーマンスをすることができる。練習ではポテンシャルの7割8割しか出せなくでも、お客さんに支えられることで100%のちからを発揮できるんです。

この“お客さんブースト”がないのが、今回の虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会2ndライブ。校内マッチングフェスティバル、1stライブ、ラブライブ!フェスと、ステージを重ねるごとに観客が増えていき、その声援を力に変えてきた虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会。そこからいきなりリアル観客ゼロでライブを行うのは大きなギャップを感じたと思いますし、僕らが想像している以上にずっと難しいステージだったんじゃないかと思います。

「新しい虹ヶ咲」を見せたい

そんな中で彼女たちが目指したのは「新しい虹ヶ咲を見せること」。インタビューやコメントなどを見ると、新しい虹ヶ咲、メンバーの新しい一面を見せたいと話す人が多かったですね。

その目標は達成……されつつあると思います。「新しい虹ヶ咲」って、ただ新曲を歌ったり、今までにないことをやれば見せられるものじゃない。本日のセットリストを見るに、おそらく2日目「Back to TOKIMEKI」は過去曲がメインになるのではないかと推測しますが、過去曲だからこそ、以前と違う新たな一面が見られる。だから、「新しい虹ヶ咲」は全3公演が終わって初めて目の当たりにすることができるはずです。

とはいえ「Brand New Story」昼公演は、アンコールを除いて今までやった曲がひとつもなかった、非常にぜいたくな公演でしたね。ユニット曲とソロ曲がミックスされて、先が予測できないまま次々と新しい曲が披露されるセットリストには、配信ライブとは思えないくらいの勢いを感じました。

ユニット曲はもちろんですが、特にアルバム「Just Believe!!!」収録曲は、このライブのポイントだったと思います。キズナエピソードでメンバーの一人ひとりがが何かしらの壁を乗り越えた先の気持ちを歌った曲だからこそ、メンバーの新たな一面、輝く姿を知ることができる。アニメがまだ放送されていない中で、ゲーム、曲、キャストが一体となって描かれた、メンバーの成長やパーソナリティを垣間見ることができました。

カメラの前で奮闘したキャスト陣

見ていて目を引いた方をピックアップしたいのですが、もう田中ちえ美さんの安定感が本当にすごくって。校内マッチングフェスティバルから天王寺璃奈ボイスを自在に操ってアップテンポナンバーを難なく歌っていらっしゃったのですが、配信ライブとなると、よりその安定感が際立ちますね。音をしっかり当てているし、ダンスもソツがない。このパフォーマンスができるまで、どれだけ練習したんだろう……。

安定感という意味では、鬼頭明里さんもハイレベルですよね。ハイレベルなんだけど、ハイレベル感がないというか……鬼頭さんは校内マッチングフェスティバルからずーっと自然体でパフォーマンスされている印象があります。ご本人のパーソナリティなのか、はたまた近江彼方というメンバーがそうさせているのか。

個人的にうれしかったのは、指出毬亜さんのパフォーマンス。単なる僕の印象ではあるのですが、今までのステージで一番思い切りパフォーマンスされていたように見えました。「哀温ノ詩」でも音をしっかり当てていて、めちゃくちゃカッコよかったですね。

ユニット曲だとQU4RTZの「Beautiful Moonlight」が出色の出来。ライブだとああいう雰囲気になるんですね! シックで大人っぽい曲調とツヤ感のある衣装、よく動くダンスによって、曲のポテンシャルが引き出されていたのではないでしょうか。ライブで新しい魅力が発見できた曲です。

1stライブのレポート記事でピックアップさせていただいた前田佳織里さんは、やっぱり曲の中に入り込んでパフォーマンスできるタイプなのかなと感じました。これも桜坂しずくというメンバーがそうさせているのかもしれませんが、「やがてひとつの物語」でも世界観全開のパフォーマンスでしたね。

相変わらずキレキレだった久保田未夢さん。「Fire Bird」では、朝香果林の情熱的な一面がダンスを中心としたパフォーマンスで引き出されていました。小道具を使ったり、ダンサーさんと一緒だったりと、新しい見せ方にも挑戦していましたね。でもやっぱり、「Starlight」のドンピシャ感はすばらしい。

その久保田未夢さんの隣で、遜色なく踊っていた村上奈津実さん、相変わらず超楽しそうでしたね。「楽しいの天才」って「Just Believe!!!」の中ではある意味特殊で、今までの宮下愛のテイストと同様の曲ながら、聞いているだけで楽しくなるラップをふんだんに取り入れたりと、「楽しい」を軸にしながら愛さんスタイルを横に広げているような感じの曲。「新しい虹ヶ咲」っていうのはガラッと変わることだけじゃないんだって教えてくれるパフォーマンスでした。

軸があるといえば、楠木ともりさんのパフォーマンス。優木せつ菜は「大好きを誰も否定しない世界」という、彼女が表現したい世界の軸を持っています。その思いが表れた曲にも強固な軸が一本通るし、それによって成り立つ世界を表現する力が、楠木さんご自身に備わっている。だからいつも力強いパフォーマンスができるのではないでしょうか。

大西亜玖璃さんのパートは分かりやすく「新しい上原歩夢」を見ることができました。衣装や髪型も過去のライブと違う。新曲「Say Good-Bye 涙」には、キズナエピソードに由来する「今の私を見てほしい」という歩夢の新たに生まれた思いが込められている。なんなら歩夢の曲でファルセットを使ったのも初めてです。でも分かりやすいからといって、ただなぞるようにパフォーマンスすればいいわけじゃないはず。MCでは「めそめそしていた」という話も出ていましたが、分かりやすいからこそ、どう表現すればいいのか悩む。表現者としてぶち当たる壁だと思います。でも楽しそうにパフォーマンスしている姿を見ると、その高い壁を乗り越えられているのかもしれませんね。ハートのオブジェを持ってカメラに向かってメッセージを口にする歩夢は最高にアイドルでした。

相良茉優さんは悔しいステージになってしまったかもしれません。慣れろったって慣れない環境でのライブで2曲目にいきなりソロ曲を歌うというのは、ファンの期待も相まって相当なプレッシャーだったと思います。でも、1回目の公演で良かった。挽回するチャンスがありますし、挽回できた際には一皮むけた相良さんと中須かすみになるのではないでしょうか。先輩たちだってライブで色々と失敗してきましたし、夜公演や「Back to TOKIMEKI」では思い切りはじけてほしいです。

開演から1時間45分、満を持して登場したのは三船栞子と小泉萌香さん。ステージ上、一人でパフォーマンスするのは初めてという小泉さん(with 生徒会)でしたが、舞台やミュージカルの経験豊かなだけあって、歌もパフォーマンスも堂々としたもの。曲がめちゃんこカッコいいのは分かっていたけれど、衣装を身にまとってのパフォーマンスではより曲の魅力が引き出されてとてもステキだったし、悩みを超えた三船栞子の力強さが表現されていました。

「ラブライブ!」史上初の10人目、しかも当初は虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会に敵対していたメンバーということで、果たして本当に受け入れてもらえるのか、小泉さんの心にも心配や不安があったんじゃないかと推測しますが、栞子と同じように、乗り越えた先の景色が今回のライブで見えつつある……といいなぁと、いち虹ヶ咲ファンとして思います。

そういえば、栞子が「1曲目」を披露したライブで、本人のリクエストによって、アンコールで9人の「1曲目」が同じく披露されるってとてもステキでしたね。改めて、10人でスタートを切ったのだなと実感できたアンコールでした。

ソロ曲が続く虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のライブは、一人ひとりの個性がばちこり出ていて大好きです。そしてソロ曲が続くライブだからこそ、全員で歌う「TOKIMEKI Runners」や「Just Believe!!!」がより輝きます。こんなにも、全員曲を見ていると幸せな気持ちになるスクールアイドルは初めてだなぁ。

メンバーの血肉になったであろう、無観客ライブ

「ライブができない」のと「お客さんがいない」のは、得られる経験がまた違います。最後のMCで「(ファンが目の前にいることが)心の支えになっていることが身にしみた」と田中ちえ美さんは話していましたが、僕らも僕らで「この曲は会場で聞いて一緒に盛り上がりたかった」と思ったタイミングが何度もあったと思います。

だからこそ、この2ndライブの経験が、いつかまた満員の観客の前でライブをしたときに、虹ヶ咲のメンバーはお客さんの前でパフォーマンスをするうれしさをより強く感じてくれるかもしれませんし、僕らは会場でキャスト陣と熱気を共有しながら応援できる、盛り上がることができる楽しさを実感するでしょう。普通じゃない、ハードな条件の中でライブを行ったことは、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会はもちろん、メンバー個人個人、そしてファンの血肉になったはずです。それに、「ラブライブ!」史上初の無観客ライブをやるというのも、前例を壊してきた虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会らしいですよね。

画面一枚という、近くて遠い隔たりをもって行われた無観客ライブでしたが、良いところもありました。ARやイラストをかぶせたパフォーマンス、QU4RTZの四人を同時に映した時のような、曲やユニットにマッチしたカット、ライブビューイングよりもさらに寄って映してくれたカメラワークはこの形式じゃないとできない表現手法です。また、なかなか会場に行けなかったり、人が多いところが苦手な人も気軽に参加できたのも良いことでした。そして何より「画面の向こうでファンが応援してくれている」「画面の向こうできっとすばらしいパフォーマンスをしてくれる」という、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会とファンのお互いへの信頼を、改めて実感することができた。そんな思い出深い、そしていつか振り返った時に、転機になるかもしれないライブだったように思います。

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