アニメ1期感想

高海千歌のスペシャリティ―「ラブライブ!サンシャイン!!」第1話感想

 きっと、みんな何者かになりたいんだと思います。“何か”として見てほしい。自分は“何か”であると思いたい。でも、「何かに夢中になりたくて、何かに全力になりたくて、脇目もふらずに走りたくて、でも何をやっていいか分からなく」なってしまう人は、とっても多いのではないでしょうか。

 特に今の時代は、楽しいもの・おもしろいことがたくさんある。他人とも簡単につながることができる。でもそのぶん、深く入り込むことができない。自分より“何か”ができる人とたやすく比べることができちゃうから、自分の至らなさにすぐ傷ついてしまう。それでも、「その日が絶対来る」と信じられるかどうか。そして信じた結果どうなったか、身を持って示したのがμ’sです。

 僕らは彼女たちの姿に胸を熱くしました。それは、静岡は沼津で暮らす高校2年生・高海千歌も同じだったのです。

 

千歌はμ’sを見ていた僕らそのもの

 千歌は「普通星に生まれた、普通星人」です。彼女はこの第1話の冒頭から“普通宣言”を発し、出会ったばかりの桜内梨子にも独特の言い回しで自分は普通の女の子だと話しています。これは伝説的スクールアイドルグループのリーダーも同じことを言っていましたが、あちらは普通なようでちょっと普通じゃなかった。千歌は彼女よりもっと一般人らしいと言いますか、是が非でも無理やり引きずり込むというタイプではなさそうです。

 しかし人間、ましてやこの年頃ならなおさら、何かをできる人が特別な人なのだと思ってしまいます。「あなたみたいにずっとピアノでがんばってきたとか、大好きなことに夢中でのめり込んできたとか、将来こんな風になりたいって夢があるとか、そんなのひとつも」ないと、日の沈む海を前にして千歌は語っています。

 「それでも何かあるんじゃないか」。いつかいつの間にか、何者かになれるんじゃないかと思っていた千歌は、何かしないと何にもなれないと気づきました。逆に言えば、何かすれば何者かになれるかもしれないのです。普通の高校生たちが大勢の人を魅了し、夢中にさせてきたからμ’sはすごかった。自分と同じはずなのに、自分が今胸に抱えているほどの感動を誰かに与えられる存在になっている。そんな姿を見て「私も仲間と一緒にがんばってみたい」と千歌は動き始めました。感動って、感じて動いて初めて感動なんですよね。

 ここに千歌のスペシャリティが表れています。「ずっとピアノでがんばってきた」は過去。「将来こんな風になりたい」と思うのは未来。千歌の中には、そのどちらも存在しません。でも、過去も未来もないからこそ、彼女は「今」に生きることができる。だからこんなにも身軽に、たやすく輝こうとすることができるのです。

 この千歌の姿は、μ’sをずっと見てきた僕らそのもの。スクールアイドルじゃなくても、μ’sを見て何かを始めた人、やっていたことを改めてがんばった人はたくさんいるのではないでしょうか。ましてや、千歌のように同年代ならなおさらのこと。これが、「今までどんな部活にも興味ないって言ってた」人が、スクールアイドル部を始めた理由。「ラブライブ!サンシャイン!!」は、僕らの中の一人の物語でもあるのです。

 

謎と期待だらけの3年生

 もっとも、千歌の前途はなかなかに多難の様子。大きな難関は、どこかで見たことがある「生徒会長が認めてくれない」という壁です。古風でお固い印象の強い生徒会長・黒澤ダイヤは、例え規則にのっとって申請したとしても、スクールアイドル部は認めないと千歌にキツく釘を刺します。その理由は「この学校にはスクールアイドルは必要ない」からなのですが、ではなぜ必要ないかというと、それはまだ語られないまま。

 一方でダイヤは、曲を作れる人を探すことが「スクールアイドルを始める時に最初に難関になるポイント」と話しています。まるで、スクールアイドルのことをよく知っているような口ぶりです。妹の黒澤ルビィがアイドルに興味津々なことも含めて、ここにはさらなる謎が潜んでいますね。

 潜む……といえば、千歌と渡辺曜との幼馴染である3年生・松浦果南。ダイビングショップを営む家の娘ですが、現在は骨折した父の代わりを務めるために休学中です。軽口を叩きながら千歌や曜と話す姿に彼女たちの親密さが表れていますが、「スクールアイドル」の言葉を耳にするとその雰囲気は一変。無理やり話題を逸らすかのように干物を千歌に押しつけました。

 その果南が厳しい目で見つめた上空には「小原家」のヘリコプター、そして小原鞠莉の姿が。「2年ぶrrrryですか」という言葉から、この金髪碧眼の少女はどうやら1年生の頃、この町にいたようです。OPにも意味深長なカットがありましたが、3年生3人にどんな過去があるのか? 格好良さと幾ばくかの弱さをあわせ持つ人が大好きな僕は、今から楽しみでなりません。

 

千歌たちとμ’sの決定的な違い

 千歌はμ’sにあこがれて、その一歩を踏み出し始めました。しかしそれは、μ’sの輝いている姿しか知らないということでもあります。これは千歌と僕ら、そしてμ’sのリーダーとの決定的な違い。つまり、千歌の動機は純度100%の能動的要因を持っているわけではないのです。彼女の動機には、受動的な部分が少なからず存在します(先人も活動開始当初は外的要因で活動していましたけどね)。

 千歌はμ’sはへのあこがれで動き始めました。メンバーが同じレベルのモチベーションを得るには、みんながμ’sを知っている必要があります。しかしいきなりμ’sどころかスクールアイドルすら知らない人が出てきた。しかも千歌自身だってμ’sのことはステージ上の姿しか知らないのですから、「μ’sもこんな苦境を乗り越えてきたんだ」とは考えられないのです。

 気が早い話ではありますが、9人揃って初めて壁にぶつかった時、千歌と仲間たちはどんな風にそれを乗り越えていくのか。その原動力は何になるのか。ひとつ、大きなポイントになるような気がしています。

 その苦境とは何か? 現段階では予想だにしませんが、音ノ木坂学院での物語とまったく異なる要素のひとつが、ロケーションです。千歌の姉が言い放った「こんな田舎じゃムリだって」という一言は、意外に物語全体を通してモノを言うのではないかと思っています。μ’sの時も秋葉原という場所とスクールアイドルの関係性が描かれましたが、今回もそんな描写があるのか、この先の展開に期待ですね。

POSTED COMMENT

  1. 拓ちゃん より:

    > きっと、みんな何者かになりたいんだと思います。

    ふと「生存戦略」を思い出してしまいましたw
    ご無沙汰しております。拓ちゃんです。

    私もサンシャイン!第1話を観て、様々な「おや?」を感じて、この後の答え合わせを待ち遠しくしているファンの一人になってます。

    千歌については、先代リーダーである穂乃果との差別化か、「どんな部活にも興味がない」「普通星に生まれた、普通星人」という発言には少々驚きを感じていました。
    ただ、溌剌であることと、アグレッシブであることは似て非なるものだし、「自分は何になりたいのか、なれるのか」という命題は高校生にとってはぼんやりとしてなかなか答えの出ない命題なのだと思います。

    その中で「これだ!」と千歌と穂乃果は“全く同じ場所”で見つけたんですよね。
    穂乃果にとっては廃校を阻止するための『光明』であり、千歌にとっては自分を普通から特別へと導く『輝き』であったと。

    μ’sにとっても『光明』は最初から同じ一つのものではなかったものの、九つの光が集まって、より大きな「ひとつの光」となった。
    果たして千歌が見出した『輝き』は、関わっていくであろう仲間たちと共にどんなものになっていくのか、楽しみです。

    3年生3人組の件は、私もOPと本編それぞれにて非常に気になるポイントになっています。
    3人はどういう過去で繋がっているのか。
    千歌が動き出すことで、これがどう変わっていくのか。
    その変化の鍵は、今のところ2年生組が……
    もっと言うと、μ’sやスクールアイドルを知らないと言った元オトノキの桜内梨子が握っているワケですね。
    山の上で転がり始めた千歌という小石が、周囲を巻き込み、一体どこまで大きくなって転がっていくのか。

    第2話以降も楽しみです。

    • ばかいぬ より:

      >拓ちゃんさん

      こんにちは! ご無沙汰しております〜。
      僕も書きながらペンギンがちらつきましたw

      千歌と穂乃果は比較できるようでいて、別のステージにいる気がしています。
      ひとつの光になった穂乃果たちを見て「輝きたい!」と思った千歌が、どんな風に
      輝こうとするのか、楽しみですよね! 個人的には、彼女にとって仲間がどういう存在になるのか、とても気になります。

      3年生の中から何が出てくるのか、本当に楽しみです!
      彼女たちがそれをどう乗り越えていくのか、そんな姿を今後に期待しています。
      次回が待ち切れないっすね!

  2. つぼはす より:

    はじめまして。初めて貴方のブログを読ませて頂きました。
    共感と新たな発見、とてもたくさんの物を得ることができました。映画の感想のほうもあわせて視野がとても広がった気がします。
    お礼を言うのも変ですが、ありがとうございます。

    私は穂乃果、千歌の2人の違う点として、幼なじみへのアプローチがまず思い浮かびます。
    千歌は曜、果南に対して直接的に一緒にやろう…とは言わなかったのがとても驚きました。当たり前なのかもしれませんが、「水泳部だから」「休学中だから」などの理由で線引きしていたと思うんです。
    そして梨子との会話で出てくる「普通」という言葉。明るさの中に見えるうっすらとした暗い何か。スクールアイドルを知り即座に動き始めたのは共通してますが、抱えている心情はまるで違うのではないかと思います。(そもそも廃校阻止を最初に掲げた穂乃果とは目的などが前提として違っていますが…)

    穂乃果だって特別自己評価は高くないでしょうし、幼なじみに頼り切りで行動を起こさないなんてことはないのは1期で1人でも練習を始めたことから読み取れます。ですが、巻き込んで引っ張っていく…という天性のスタンスは穂乃果の物なのではないかな、と思っています。
    千歌がどういった子なのかはまだまだわからないことですけど、なんとなく「呼び込んで押し上げていく」って感じのイメージがぼんやりとあります。曜の加入の仕方と、挿入歌の千歌のアップのシーンの手の動きだけでイメージした陳腐な妄想ですが()

    自分も今後の展開に期待しようと思います。
    駄文失礼しました。

    • ばかいぬ より:

      >つぼはすさん
      はじめまして! コメント、ありがとうございます。
      たくさんのものを感じ取ってくださったと聞いて、とてもうれしく思います。

      千歌の幼なじみ2人に対するアプローチ、そして「普通」の裏にあるほの暗さ、
      とても参考になるご意見をいただいたと思っています。
      確かに「一緒にやろう」とは言ってないんですよね。信念はあるけど、自分と他人の境界線は
      穂乃果よりもはっきりと持っているのかもしれません。

      「呼び込んで押し上げていく」というキーワード、覚えておきます!
      よろしければ、またぜひ遊びにきてくださいませ〜!

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