ラブライブ!

最後まで「自己中心」を貫いたμ’s―映画版「ラブライブ!」感想(最終回)

 「僕たちはひとつの光」は、9人のμ’sが初めて行った、観客が映らないライブです。

 「SUNNY DAY SONG」でひとつの区切りを迎えたμ’sが、なぜ最後にもう一度歌ったのか。この曲は、自分たちのためだけに歌った歌。最後まで自己中心=やりたいことを追い求め続けた証だからです。

 

●●のため

 「ラブライブ!」には、2つの“ため”があります。ひとつは、学校のため、スクールアイドルのため……自分じゃない何か、誰かの“ため”。もうひとつは、他でもない自分の“ため”です。

 TVシリーズでは、1期1話から2期13話まで一貫して、人が「やりたいことをやる」姿が描かれてきました。他人の目を気にしていた1年生。他人が望むままに自分を形作っていた絢瀬絵里と東條希。それを乗り越えて、自分のためにやりたいことをやる。やりたいことをやり遂げていったのがμ’sの物語です。これは映画でも同じでした。

 終わりを告げるライブをしようと決めた矢先、理事長から多くの人の「続けてほしい」という思いがμ’sに伝えられます。ラブライブのため、スクールアイドルのため、後進のために、μ’sには旗手になってほしい。尊敬し続けてきたA-RISEにまで、同じステージでライバルでいてほしいと請われます。

 一度「大会が終わったら、μ’sはおしまい」と固く決意したからこそ、南ことりの母の言葉に高坂穂乃果たちは悩みます。悩むに足るほど、自分たちが続けることでうれしく思ってくれる人たち――“●●のため”の●●があまりに大きく、そして多いのです(それを視界に収められるようになったのは、穂乃果の成長でもあります)。

 頭を抱える穂乃果の前に現れたのは、かの女性シンガーでした。

 

自分たちのためだけの曲

 女性シンガーという人は、穂乃果に原点を思い出させてくれる存在です。すなわち、「あの頃」何が楽しくて、どうありたかったのか。薫陶を受けた穂乃果は、それを貫いてきたからこそ、今の私とμ’sがあると気づきます。ならば最後まで貫けばいい。

 そうして出した答えが「スクールアイドルにこだわりたい」でした。

 最後まで、終わりがあるスクールアイドル・μ’sでいること。彼女たちは、自分の中にあり続けた一番大切なモノをもう一度手に取り、掲げてみせました。まさに人が成長した一瞬、目の前の広大な水場さえも“飛び越えた”瞬間です。

 スクールアイドルのチャンピオンが落としどころとして選んだのは、スクールアイドルのすばらしさを伝えるライブをすること。そのために「SUNNY DAY SONG」という曲が新たに作られました。ライブに込められた思いや、ライブを作り上げる経緯からして、これはスクールアイドルみんなのための曲。自分たちのための曲ではないのです。

 スクールアイドルのすばらしさを伝えるライブを成し遂げたのは、とてもすばらしいこと。でもこれでは足りない。ここまでずっと、自分たちのやりたいことをやり続けてきたμ’sだからこそ、自分たちのためだけの曲が必要でした。「9人で歌いたいから」作る曲、それが「僕たちはひとつの光」です。

 

μ’sが貫く“自己中心”

 普通なら、みんなのために何かをしたら、それで満足するかもしれません。ましてや、あれだけ大きなライブを短時間で実現させてみせたのです。充実感を抱いてもおかしくないでしょう。

 でも、この子たちはそこに留まりませんでした。μ’sは、「自分のため」を決して忘れません。なぜか? そうやってここまで前に進み続けてきたからです。

 可能性を感じて進むには、どこかで“自己中心”になる必要があります。周りばかりを気にするのではなく、かといってワガママになるのでもない。「これをやり遂げたい自分」を持ち続けるという“自己中心”です。自分がやりたいことをやるという、他のあらゆるものが入り込む余地もないほどのパワーを持って突っ走る。そうやって前に前に進み続けてきたから「今が最高」と歌い、最後まで輝くことができます。

 自分たちの名前と9人に共通する思いを込めた歌詞を、目指したステージで高らかに歌うμ’s。学校のためでもなければ、スクールアイドルのためでも、みんなのためでもない。ただただ、自分たちの思いを表現するために、彼女たちは「僕たちはひとつの光」を歌います。だからこの曲に、観客は映し出されないのです。

 終わる切なさの向こうにある楽しさを掴んだからこそ、μ’sはもう一度訪れた「おしまい」を、笑って迎えました。

 

μ’sが残したモノ

 μ’sのドームライブをステップに、ラブライブは2年後も続けて開催されています。その舞台を目指すスクールアイドルの一組として高坂雪穂と絢瀬亜里沙が描かれており、彼女たちは3年生になった今も、μ’sの最後のライブを語り継いでいます。

 μ’sは、最後に自分たちのために歌ったことで「ラブライブ!」という目指すものを残しました。それは彼方まで続く夢、叶えと願うみんなの「夢」なのです。

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