SID感想

西木野真姫と本田圭佑

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 口では言えないことも、文字にしてなら伝えられる――。

 

 ”School idol diary” 西木野真姫編は、まさに真姫の本心が散りばめられた一冊でした。真姫の、μ’sへの愛がたっぷり詰められた本。真姫推しでなくとも、つい口にしてしまいます。この子、可愛い……!

 

 人の本心そのものって、すごく魅力的なんです。面と向かっては言えないけれど、ありがとうって文字で何とか伝えたい。隠している本心がこんなに可愛らしいと分かると、より一層惹かれてしまいます。

 

 カッコつけているくせに実はとても素直。彼女のこの素直さは、「マイナスからのスタート」から来るものでした。

 

「西木野総合病院のお嬢様」

 周囲の人間が真姫を認識する上で、一番簡単でわかりやすいのが「西木野総合病院のお嬢様」です。地元でも名の通った、あの大きな病院の一人娘。お金持ちで、きっとそれ相応の教育を受けている子なのだろうと、みんなが思います。

 

 ただ、彼女の不幸は、親でさえも真姫を「西木野総合病院のお嬢様」と見ていたことでした。

 

 親から見た「西木野総合病院のお嬢様」は常に結果を出し続けなければならず、「一時のお遊び」であるはずのピアノでも、1位でなければ認めてもらえませんでした。6年生のお姉さんもいる中で2位を獲った小学2年生のピアノ好きな女の子は、親の中では存在することができなかったのです。

 

 子どもにとって、親から褒められないというのはアイデンティティの喪失も同然。自分がここにいるために、親の視界のうちに入るために、小さな真姫は「西木野総合病院のお嬢様」になろうとします。

 

 そうして中学卒業まで歩んできた真姫は、音ノ木坂学院で高坂穂乃果と出会うのです。

 

 

「西木野総合病院のお嬢様」ではなく

 ちょっとアニメの描写も混ぜて書いちゃいましょう。どこからか流れてくるピアノと歌にひかれるように音楽室に行き着いた穂乃果は、弾き語りをしている真姫に出会います。「すごいすごいすごい!」と感動した穂乃果は、こう続けるのです。

 

 「歌上手だね、ピアノも上手だね!」

 

 Sidでは「あの日、穂乃果ちゃんに出会って――。」としか書かれていないシーンですが、2人の出会いが、これとまったく同じでありますようにと願ってしまいます。

 

 穂乃果の言葉は、ずっと真姫が欲しがっていた言葉だと思うからです。

 

 いえ、おそらく何度も言われてはきたでしょう。しかしそれにはきっと、「西木野総合病院のお嬢様は」という主語がついた。あるいは、真姫自身がそう受け取ってしまっていた。

 

 でも、真姫が西木野総合病院の一人娘であることなんてまったく知らない穂乃果が言った言葉には「あなたは」と付いていました。先入観も色眼鏡もなく、ただ自分だけを見て褒めてくれたこの言葉を、真姫はずっと欲しがっていたんじゃないでしょうか。

 

 

リトル西木野

 本田圭佑というサッカー選手がいます。サッカーに興味がなくとも、CMやニュースで目にしたことのある方もいらっしゃるかと思います。本田はつい先日、ヨーロッパ四大リーグのひとつであるイタリア・セリエAの、これまた名門のACミランというクラブに入団しました。インテルの長友佑都やマンUの香川真司もそうですが、こんなビッグクラブに日本人が移籍するなんて一昔前では考えられない、すごいことです。

 

 ACミランへの入団会見で、数あるオファーの中でミランを選んだ理由を問われた本田はこう答えました。

 

心の中のリトル本田に聞いたんです。どのクラブでお前はプレーしたいんだと。そうしたら、心の中のリトル本田がACミランでプレーしたいと言ったんです。

 

 リトル本田は、もう一人の本田圭佑であると同時に、在りし日の彼のことでもあります。本田は、小学校の卒業文集にこう書いたそうです。

 

Wカップで有名になって ぼくは外国から呼ばれて ヨーロッパのセリエAに入団します。そして レギュラーになって 10番で活躍します。

 

 

 活躍はこれからの話として、この ”リトル本田” が描いた夢と、セリエAの名門クラブにエースナンバー10番を託されて入団した現在の本田圭佑がピタリと重なります。自己実現なんてありふれた言葉をあまり使いたくはないのですが、自己を結実させた最上級のケースです。本田は既にミランで何を成し遂げるかに目を向けていましたが、少なからず充実感はあるんじゃないかなと思いながら会見を観ていました。

 

 真姫の話に戻りますが、μ’sに入った彼女も同じだと思うのです。

 

 μ’sのメンバーは、真姫を「西木野総合病院のお嬢様」ではなく、「西木野真姫」として見てくれました。そうして引き込まれていくうちに、思春期らしい自我が芽生えます。

 

 μ’sの曲を一手に引き受けている真姫。自分自身や、自分の好きなことが活きる場所があり、必要としてくれる、認めてくれる人がいて、喜んで提供する自分がいる。発表会で2位を獲り、嬉しくて飛び跳ねていた ”リトル西木野” が望んでいた世界に、真姫はようやく辿り着いたのです。

 

 

素直に言える真姫に

 もっとも、だからといって本田のように目標がはっきりしていて、それを手にするために自分に期待とプレッシャーをかける、なんてメンタリティは真姫にはありません(ほとんどの人にとっても、こんなメンタリティを持つことは難しいと思いますが……)。

 

 μ’sに出会って、真姫は自分の気持ちに素直になることと、斜に構えていた自分との間で奮闘しています。やりたいことに向かってまっすぐ突き進む仲間たちを見て、自分に足りない部分を自覚する日々です。
 でも、それで良いのです。Sid作中で真姫は何度も自分の素直じゃないところを口にしていますが、15歳にして自分のダメなところを直視できるのは偉いと思うのです。

 

 何より、自分の至らないところを見た上で、他の子たちの良いところをいっぱい見つけられているのが、真姫の一番ステキなところ。

 

 彼女は差を感じても、決して卑屈になりません。「きっとみんなに追いつけるように――がんばるから」と目標にしています。花陽や凛、他のメンバーたちの良いところを見て成長しようとしている姿がとても愛らしいです。

 

 大好きなピアノが活きる世界に連れてきてくれたこと。家まで来て父親を説得してくれたこと。何とかアイドルメイドを演じようとする自分を褒めてくれること。自転車の練習に、バカにせずに付き合ってくれること。一緒に帰ってくれること。
 何気ないことでも「西木野総合病院のお嬢様」にとっては、今までになかった、すごく嬉しいことでした。

 

 冒頭に書いた「マイナスからのスタート」ゆえの素直さというのは、ここです。ピアノで褒められなかったり、近しい友人ができなかったのは寂しいことだったでしょう。しかし、だからこそそれを手にしたとき、心から大切にすることができる。素直に受け取り、子どもの宝物のように大事にできるのは、真姫の大きな魅力です。

 

 発展途上の、15歳の女の子。最後まで素直になれなかった中学生の頃から、真姫は少しずつ、でも確かに成長しています。自分の名前とたった一文字違いの大切なあの子に、今度こそ気持ちを伝えられる日が来ますように――。こんなに純粋で一生懸命な姿を見たら、そう思わずにはいられませんでした。

 

 

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POSTED COMMENT

  1. ラブライブ! より:

    真姫ちゃんの魅力がぎゅっと詰まった素晴らしい紹介文ですね!

    • bakainu より:

      ありがとうございます〜! 真姫のステキなところをフォーカスして書きました!

  2. 匿名 より:

    真姫の魅力がよく紹介されてますね!
    自分も読みましたが、そこまで深くは探れませんでした
    素晴らしいです!! ありがとうございます!

    • ばかいぬ より:

      >匿名さん
      古い記事ですが、見つけてくださりありがとうございます!
      真姫の新しい魅力を発見するお手伝いになれたらうれしいです。

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