SID感想

園田海未とネコミミ

 「ラブライブ! School idol diary 〜園田海未〜」では、海未の穂乃果への限りない愛が耳目を集めました。海未を語るに避けては通れない道ですが、このエントリではもう少し本人にフォーカスし、アイドルショップに訪れたエピソードから、海未自身のことを書いていきます。

 

 

刹那的な「ラブライブ!」

 

 「ラブライブ!」の物語は、非常に刹那的です。彼女たちの視線は3年以内の廃校阻止に向いており、例えば大学受験や将来の夢など、未来における他のことはあまり描かれていません。

 

 むしろ、それらを描いた途端、アニメ版のことりのケースのように、ストーリー上は転機になってしまいます。なぜでしょう?

 

 μ’sの活動は、誤解を恐れずに言えば将来に直結しません。アニメのストーリーのように、活動目的が廃校阻止から「自分がやりたいこと」「みんなでやりたいこと」に移ったとしても、先への道(非常に現実的な例えをしますが、スカウトや事務所との契約など……絶対に描かれないと思いますが)が拓けない限り、そこで終わります。甲子園を目指した球児、甲子園に辿り着いた球児たち全員が、野球で次のステップに登るわけではないのです。

 

 つまり、将来の夢や進路が姿を現した途端、現在のμ’sとしての活動と、否応なく天秤にかけなければならなくなります。選択を強いられるのです。ですから転機、つまり別れ道になるのです。

 

 ところが、その中でうまくバランスを取っているのが園田海未です。

 

 

海未の「生まれ」

 

 海未(と西木野真姫)の物語にあって他のメンバーにないものは、家柄・家系です。継ぐ家、家業があるということです。

 

 海未の場合、西木野家ほどの強制力はまだ発動していませんが、進路として「家を継ぐ」ということが当たり前のように用意されています。真姫との違いは、それを肯定的に受け入れているということです。

 

 小さいころから「そういうもの」として育てられてきたせいか、海未の生活の中で鍛錬、稽古があるのは至って自然。毎日を過ごす中で稽古をやり、μ’sの活動をし、バランスをきちんと取りながら過ごしています。さすがの自制心です。

 

 長期的には「どれかひとつなんて決められない」としながらも、中期的、あるいは日々の生活において計画的に過ごしていることが伺えます。「家柄」と「やりたいこと」を上手に融合させているのが海未です。

 

 ところが、「School idol diary」では、いわゆるこの「生まれ」が海未を縛る出来事が描かれます。

 

 

私にもできるなんて。

 

 弓道の試合を終えてμ’sに合流した海未は、ダンスの練習で大苦戦。らしくない姿を見せてしまいます。真姫が指摘するには「日舞をずっとやってたから、リズムが裏」「重心が低い」。

 

 それは海未が「物心つく前から叩き込まれ、鍛え上げられてきた絶対的な基準」です。身体の芯に染み込まれ、きっと取り去ることはできないもの。彼女を彼女たらしめるものが、まさかここで仇になるとは、海未は思いもよらなかったことでしょう。

 

 ともすれば、自分はアイドルには向いていないのではないかと思い悩む海未。何かヒントをとすがる思いで訪れたアイドルショップで彼女を救ったのは、ネコミミでした。

 

 

 既にお店にいたにことことりに、「これ似合うかも♡」と、カポリとかぶせられたネコミミ。鏡に映った自分を見て、海未は固まります。いつもの自分ではない自分。思いがけず可愛く変貌した自分。

 

 「どうしよう。こんなことが――私にもできるなんて。」

 

 

感じた可能性は

 

 このシーンの前に海未は、A-RISEグッズに沸く中学生くらいの女の子たちと自分を重ねています。

 

 大切で、大好きで、キラキラ輝いていて、自分は絶対なれない憧れの存在がいる。その人のことを「ただ純粋な気持ちで」思ってしまう。

 

 明言はしていませんが、十中八九穂乃果のことでしょう。自分には絶対なれない人……海未にとってはある意味、穂乃果は正真正銘の「アイドル」なのです。その育ち故に、自分はアイドルに向いていないのではと考えていたこの時の海未は、自分と、「アイドル」である穂乃果とのギャップをより強く感じていたはずです。「絶対なれない」のではないかと。

 

 ところがネコミミを付けた自分は思いのほか可愛かった! アイドルショップにあるモノ、つまり本人の言う「同じ扉の向こうに私の知らない秘密が広がるあちら側の世界」にあるモノも、意外と似合う――自分は、アイドルになれないわけじゃないんじゃないかと思えた瞬間だったはずです。

 

 

 海未はこの時、自分の中に「強い」「凛々しい」だけではない自分がいることに気づきました。

 

 

 「強い」「凛々しい」は、「武道・芸道の中で育ってきた自分」に置き換えられます。つまり、拍が裏ではない、重心が下ではない自分もいることに、アイドルができる自分がいることに気づいたのです。

 

 気づくとは、すなわち成長すること。武芸ではないまったく別の分野で可能性を感じた彼女は、この時また一段、階段を登ったのだと思います。

 

 穂乃果がμ’sの活動を通じてどんどん成長していくのを見ると同時に、海未は「その同じ変化はきっと今私の身の上にも起きている」と自覚しています。まだその変化をコントロールし得るには至っていないかもしれません。しかし彼女は、変化する前からある自分と、変化した後に新しく生まれた自分の両方を大事にできる人だと思うのです。

 

 そんなバランス感覚をもつ海未。きっと将来、魅力的な女性になるでしょう。その姿を見ることは「ラブライブ!」という物語の中では叶わないかもしれませんが、せめて今の変わりつつある海未と、変わらない海未を観ていたいです。かの「誓約書」が守られることを楽しみにしながら……。

 

 

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