星空凛の「School idol diary」は、凛の中学時代以前のエピソードが中心となって展開されています。昔の話、今の話、いろいろありますが、通して見てみると、「一度飛び込んで確認する」という昔から変わらない彼女の人柄を読み取ることができます。
わずかに描かれた「女の子」へのコンプレックスを扱った1章では、ことりの誘惑に乗せられて“正統派美少女”になったり。「花陽が怖がるから」などとは毛頭考えずにお化け姿のまま花陽をおどかしすぎて泣かせたり。結果、自分の良さを再確認したり、反省して逆に「かよちんを守るんだ!」と決意を新たにしたり。
悪く言えば考えなしに突っ込み、良く言えば考えすぎずに飛び込める凛。このとても動物的なところが良い方向に作用したのが、学校の屋上での、東條希とのシーンでした。
希の真意と凛
「流れ星がいっぱい見えるのは疫病神かも」
学校での合宿で、ひとり夜空の下の屋上で寝そべり、星を見上げていた希は、彼女を探しにきた凛にそう言います。
いつものすっ飛んだ言説にも聞こえますが、その真意は「疫病神だから人が離れてしまう。だから、独りで星空を見上げることが多くなって、流れ星がいっぱい見える」でしょう。
そう考えると、この後の「夜空を見上げる機会がたくさんあれば、もちろん自然に流れ星を見かける回数も多くなるし。人は誰でも、そんな生まれつきの事柄に左右されて生きてる。ウチかて、生まれついた家が転勤ばっかりしてたせいで、こうして――あちこちの学校渡り歩いて。そのせいでこうして――」というセリフにも合点がいくし、さらにその後の「おかげですーっかり、こんな関西弁ともなんともつかない、しょうもない変テコな言葉づかいになってもうたし」というのも、寂しさを隠して誤魔化したとわかります。
この希の誤魔化しを、凛は持ち前の感性で察知します。
なに――考えてるんだろ。
見てみたい。その頭の中。
その頭の中には今――μ’sのみんなはいるのかニャ?
こうしてみんなで合宿に来てるのに。
ひとりで星空を見上げてる希ちゃん。
凛は急に不安になる。
希ちゃんは――みんなのことどう思ってるんだろ。
凛は“確認”するために、ブッ込みます。
「希ちゃん――さびしいの?」
本当のポジティブ
結局この後、凛は盛大にくすぐられたり、ウソでまた誤魔化されるわけですが、希は思わず「もう、さみしくないよ」と本音をこぼしています。
この本音を引き出すことができたのも、まず“確認”する凛だからこそ。考え込んだり、相手を伺いすぎたりせずに懐へ飛び込めるのは、まぎれもなく凛の長所です。常々、凛はねこというより犬っぽいと思うのですが、彼女の他人に対する抵抗感のなさが、奏功したといえるエピソードです。絵里やにことはまた違う、希との分かり合い方ですよね。狭いところをスルリと抜けていくような……あれ、やっぱりねこなのかな?
凛は「いつも無鉄砲でなんにも考えてない! ってメンバーからも言われることの多い凛に、こんなふうに考えこませるなんて、本当に希ちゃんは不思議な人だニャ」と結んでいますが、むしろ希のほうがそれを感じていたのかもしれません。彼女の周りには、今までああいう子はいなかったんじゃないでしょうか。
◆◇◆
凛のSIDは、音ノ木坂学院以前のエピソードが多く収録されています。その中で彼女は、友達を悲しませないことや命の儚さ、そして何より誰かのために勝つ、そのために努力をするということを学んでいます。
この最後の、中学の陸上大会でのエピソードは、そのままなぜ彼女がμ’sに入ったかという動機にもつながるのですが、きっとアニメだけではわからない、新しい凛の一面が見られるので、ぜひ読んでいただきたいところです。
このμ’s入団の動機と、アニメで語られていた凛の「一番女の子らしい」点はどこか、ということについては、風華チルヲさんの2014年冬コミの新刊に寄稿として書かせていただいたので、ぜひお手にとってみてください。今度、3月15日の僕ラブ7でも頒布されるとのことです。まだ世に出たばかりなので、この記事ではそれ以外のお話をフォーカスしています。
にしても、ここでは言及していない部分を含めても、まず“確認”する凛は、やはり失敗することも多いです。しかし、希も認める“ポジティブガール”の凛は、必ずそこから大事なことを学び取っています。あどけなさも多分にある彼女ですが、ひとつひとつの経験をとても丁寧に積み重ねて成長しているのです。
ただ前を向くだけがポジティブではない。失敗を含めた過去の経験から、必ずひとつ何かを汲み取って次に活かすのが本当の「ポジティブ」。だからまず飛び込んでみる。そんな勇気を持つ彼女はまさしく、“ゆうきりんりん”星空凛なのですね。
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