考え方

絵を描くために学校を辞めたいという少年へ

http://togetter.com/li/239236

 

 絵を嗜んでもいない僕が言うのも何だけど、もしかしたら同じ絵師さんとは違った意見を言えるかもしれない。僕は、あなたの年齢の2つ下から大学卒業まで役者を目指し、今はしがないサラリーマンをやりながらアニソンバンドで歌を歌っています。今はあなたのちょうど10歳上かな。もしよかったら、読んでみてね。

 学校を辞めて仕事はどうする、中身のない絵しか描けなくなる、まとめを見た限りではありますが、色々言われたと思います。全部正しいです。仕事によって貨幣を手にし、それを使って生き、自分を成長させる何かを手にしたり、楽しみを得る。それが社会ですね。そういうふうにできている。「学校に行かなきゃいけない社会に誰がした」と憤っていたけれど、おつりが出るほど、そんな社会からいっぱい恩恵を受けているはずです。安全に移動できること、正当な金額で画材を買えること、ステキなご友人がいること。それを根底から覆すのはちょっともったいないです。

 「外から強いられている何かをすべて消して、自分がやりたいことにすべてを注ぎたい」という気持ちはすっっっごいよく分かります。僕も、昔はおろか今でさえそう思う時が何度もあります。歌をもっと練習したい時、新しいことを急に始めたくなった時……。そんな時に、やりたいことをやるために打ち消せるものって、実はやりたいことと同カテゴリのものだけなんです。趣味をやりたいなら、別の趣味の時間を削る。ある仕事をしたいなら、別の仕事をやらないでいる。そうすれば、人間はバランスを取ることができます。仕事の時間を趣味に、趣味の時間を仕事にしようとすると、必ず人生のどこかにガタが来てしまうのです。
 生徒さん、学生さんにとって学校に行くことは、まさに仕事。義務教育ではないと言われるかもしれないけれど、いつからか高校も義務教育みたいな認識となりました。学校を辞めてでも働かなければいけないという状況でない限り、「学校に行く」ということを、他に打ち消せるものはないのです。

 学校の話が続いてしまいますが、ティーンにとってあれだけ大事な場所はないです。黙っていても年上の人から多種多様な知識や人生を教えられる場所は、それ以降の人生ではもうありません。周りの人の中で、自分がどんな人と合うか、どれくらいの距離感を持てばうまく付き合えるか、予習できるところも、以降ないのです。そしてそれらは、ステキな人間になるために必要な経験です。
 これは特に主観的な考えですが、立派な絵師さんになるより、まずステキな人間になることの方が比べものにならないくらい大事です。人生経験の豊かさが絵につながるとかなんかもうそういうレベルではなく、一番重要なことです。なぜなら、「どんな人であるか」は生きることそのものだからです。「何をやっている人か」では代替できないことです。
 今は世界が学校(=絵を描けない世界)か、絵を描けるプライベートの世界のふたつだけかもしれないけど、歳を重ねると色々な世界が見えます。必ず、絵とは違う、別のキラキラしたところを見つけて行ってみたくなります。その場所を心から楽しめるように、たくさんのことを学び、ステキな人になっていってください。

 そして忘れてはいけないのが「スポンサー」の存在。学校というスゴい場所に行かせてくれて、画材や機器を買うお金を提供してくれて、衣食住だけでなくネットの環境も整えてくれるのが、親です。僕は高3の春に、とある声優事務所のオーディションで書類テープ審査が通りました。「合格したらどうするの」と母に訊かれ「高校やめて声優をする」と言った時はめちゃんこ泣かれました。
 僕はまだ結婚すらしていないので実感とは言えないのですが、社会人になると子どもを学校に行かせることがどれだけすごいことか、何となくでも分かります(特に金銭面で)。泣くほど、子どもを学校に行かせるというのは親にとって大変なことであり、子どもは大切な存在なんですね。スポンサーのありがたさはTV局の方やJリーグのサポーターに訊けば実感を伴って教えてくれると思いますが、恐らく誰に訊いても全員、親ほど資金提供先を目にかけて守ってくれるスポンサーはいないと言うでしょう。「ケッ、そんなもん」と思われるかもしれませんが、行かせてもらっているという意識は持っていて損はないと思います。

 

 あれだけの数もらっていたリプライの中にほとんどこの意見がなかったのが不思議で仕方ないのですが、一番大切で一番意識してほしくて、そして一番励みになることを言います。あなたにはまだまだ、むぁ~~~だむぁだ時間がたーーーっぷりあります。どうやら絵を描き始めたことが遅くなったことを悔いて悔いてその分を今の時間で取り戻したいとお思いのようですが、ムダなことです。なぜなら、受験のように皆が全く同じ技量を競うことならまだしも、「あなたの絵を描くこと」に参加しているのはあなただけだからです。他の人を気にすることほどムダなことはありません。いつかは存じませんが、この「世界線」であなたが絵を描くことを始めたタイミングでしか、辿りつけないゴールがあります。それは、もっと早く始めたら絶対に辿りつけなかったゴールです。それを突き詰める道だけが、あなたの前にあります。道を無理やり曲げて他の人に合流しようと考えてはいけません。合流する人など最初からいないのです。

 

 僕が家庭の事情で役者を目指すことをやめ(ざるを得なくなっ)たのは大学4年の冬。時を同じくして、まるで入れ替わるようにして「歌」という大きな趣味ができました。はじめはひとりで歌っていましたが、縁あって今ではバンドとして活動しています。あなたと同じように仕事にするつもりはありませんが、もう3年やってきました。ありがたいことに、ステキな仲間に出会い、好意的なコメントをいただいたり、「ファンです!」と言ってくださる方もいます。もっともっと上手くなりたいです。始めることに遅くはなく、頂点を目指すことに遅きはない。それがあなたにとって最良のタイミング。16歳なんて、こんなに早く人生をかけて打ち込みたいことを見つけられたなんて羨ましい限りです。これから技術を伸ばす時間も、過去の経験を活かすチャンスも、別の何かをやってみたくなって浮気することも、いっぱい、いーーーっぱいあります。全部拾っていってください。先を、先だけを見ていきましょう。

 どうか、「絵師と呼ばれたくて絵師になった人」ではなく、「絵が好きで好きで気づいたら絵師になった人」になってください。いつかコミケで本を買いに行かせてくださいね♪

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です