一番というのは多分に贔屓目が入っているのですが、そうでなくとも彼女の変化―すなわち成長は、TVアニメ版はもちろん映画版でも大いに見て取れます。
映画版での成長ポイントはどこだったのか、少し細かく見ていきましょう。
よりマイルドなまとめ役に
まずはニューヨークに到着したその日に、みんなで食事をしながら次の日の予定を決めるシーン。頑なに外に出ようとしない海未に対し、絵里は一度その気持ちを受け入れながらも「練習をすること」「街に繰り出すこと」を両立させた意見を出しています。
広い視野で一方的な物の見方をしないのは、2期4話で言っていた「練習は嘘をつかない。けど、ただ闇雲にやればいいというわけじゃない」という言葉からも見て取れます。
しかし、その能力を2期4話のように“締めるところ”ではなく、ポジティブに包み込むような使い方で活かせるようになっていたのは、小さからぬ喜びでした。最年長らしい、良きリーダーシップを発揮しています。
ほどよいヌケ感
はぐれてしまった穂乃果が帰ってきた場面では、ホテルに戻る際「あなたが引っ張って、最高のライブにしてよ」と発破をかけています。
「Angelic Angel」は、そもそも絵里がセンターの曲。1期11話でも穂乃果にセンターという役割の重要性を示していましたが、このライブで一番みんなを引っ張らなきゃいけないのはセンターである自分だとわかっていたはずです。
ましてや、異国の地で行う今回の興行は、スクールアイドルをアピールするためのもの。その責任も重大です。
しかし少なくとも描かれていた中では、あの繊細な絵里が過剰に責任を負うところは皆無でした。それどころか「みんなに迷惑をかけた」と反省するメンバーに対し、それこそ責任を感じすぎないような言葉がけをしている。
センターを張りながら「最高のライブにする」という意気込みと、9人でライブをするんだという適度な“ヌケ”の、いい塩梅の緊張感を持ってライブに臨んだことが伺えます。そこに、周りの意見を耳に入れることができなかったμ’s加入前の姿は、もうありません。
「楽しむこと」を覚えた
帰国後、自分たちのあずかり知らぬ間に大々的なプロモーションがなされ、大きな反響を受けたμ’s。空港での出待ちから、ただただその現実味がない人気の高さに戸惑う姿が描かれていました。
しかしよく見てみると、空港でサインをねだられるところから「?←HEARTBEAT」のシーンまで、3年生の表情はほぼ描かれていません。万世橋の近くでファンに見つかって大騒ぎになったときも、みんなの後ろでにこが飛び跳ねているくらい。絵里と希は姿も描かれていないのです。
そこからの「?←HEARTBEAT」という楽曲。映画の6曲の中でもかなりパンチの効いた曲で、急にファンが増えた戸惑いとうれしさが表現されています。
歌詞やメロディもさることながら、やはり大事なのはパフォーマンスをする3人の姿。このような状況にもかかわらず、とても楽しそうなんですよね。にこと希はまだしも、ここに絵里も一緒に入ることができていることに、得も言われぬうれしさを覚えます。「困っちゃった!」を全力で表現する絵里、とても可愛らしいですよね。
「私も早く聴きたい!」
初めて映画版を見たときに、思わず「おおっ」と声を出して拍手喝采しそうになってしまったのがこのシーン。
言葉で説明するのが野暮になるくらい、彼女が“等身大の女の子”になれていることがたまらなくうれしかったのです。そりゃあ隣の希もいじってしまうというもの。それに恥ずかしがる姿もまた可愛い。完全に萌え語りになっていますが、ここは絵里推しでなくともわかりやすい成長ポイントです。
同じ類のものが、「SUNNY DAY SONG」前のシーン。「よぅし、UTXまで競争!」といきなり持ち掛けるところも年頃の高校生らしい姿ですよね。「負けた人ジュースおごり!」なんて、運動部でやった人も多いのではないでしょうか。
全国のスクールアイドルに会ってライブ出演を呼びかけるところなんかも、真姫と一緒に相手の挑戦をノリノリで受けて立っていますが、ああいうところも含めて絵里は「心の底から楽しむ」ことができるようになりました。
彼女が経験してきた挫折、背負ってきたモノを思うと、単なる成長・変化という言葉では片付けられない何かを感じずにはいられません。
絵里が手にしたもの
最後は、穂乃果に対してメールを出したシーン。ここについては映画版感想第4回「絵里がメールを出すシーンが一番好き」でも書いたのですが、絵里がメールを出すというところに意味があると思うんですね。
3年生だけで話し合って出された答え「μ’sは続けません」は、2期11話で2年生と1年生が悩み抜いた末に「μ’sはおしまいにします」と叫んだのと対になるかのようでした。絵里の言葉で高坂穂乃果に伝えられた思いは「スクールアイドルにこだわりたい」ということでした。
あの絵里が、スクールアイドルはすべて素人にしか見えないと突き放した絵里が、スクールアイドルが好き、スクールアイドルにこだわりたいと言う。
「素人にしか見えない」という言葉は、すべてのダンスの基礎であるバレエをやり続けてきた絵里だからこその視点です。本格的な指導を受けてきたからこそ「ダンスっていうのはそんなもんじゃないわよ」というプライドがあった。絵里にとってダンスは、多くの熱量を注いできた大事なものです。
その大好きなダンスができる場所として、彼女の目の前にスクールアイドル・μ’sが現れました。「僕らのLIVE 君とのLIFE」を歌い終えたあと、ステップを踏むのが楽しくて仕方がなかった幼いころと同じ顔で微笑んだ絵里。この時はじめて彼女は、幼き日の挫折を乗り越えられたのです。
再びダンスに打ち込む場所と、希をはじめとした最高の友人たちを得た日々は、彼女にとって「最高に楽しかった」時間でした。「スクールアイドルが好き」と絵里が言えたことは、ずっと眉間にしわを寄せていた女の子が、心から楽しいと思える時間を過ごすことができた証。大人っぽさ繊細さ、茶目っ気と可愛らしさをあわせ持つ18歳が、挫折と孤立を乗り越えて大切な宝物を得た瞬間なのです。