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奥沢美咲は本当にミッシェルなのか。「バンドリ!ガルパ」ハロハピ2章考察

正直、「ハロー、ハッピーワールド!」をなめていました。2章とはいえハロハピのことだし、そんなに懐をえぐるようなボールは来ないだろうと思っていたのですが、良い意味で予想外でした。その中心にいたのは、奥沢美咲です。

きぐるみDJ・ミッシェルの“中の人”として活動してきた美咲。「普通にほどほどが一番」と安寧を願いつつも、その面倒見の良さゆえに、計画性なく前へ前へと進む弦巻こころたちの“お世話”をしています。何やかや言いつつもバンドを支える彼女は、ハロハピを支える「裏方」と言えるでしょう。

ところが、今回は様子が違います。遊園地を復活させるというこれまでになく大掛かりな仕掛けに対し、美咲一人では荷が重すぎると判断したメンバーは、普段美咲が担っている仕事を分担し、こなしていきます。「自分がいなくてもみんな仕事ができる」ことを知った美咲は、自身がハロハピにいる意味を疑い始めるのです。

彼女がハロハピにいる意味を疑う原因は、それだけではありません。最近急上昇している「ミッシェルの人気」も、要因の一つ。街でも子どもたちに大人気のミッシェルは今やハロハピの快進撃に欠かせない存在となっており、メンバーからの信頼も厚い。その、自分のようで自分でない存在の人気ぶりが、美咲のアイデンティティをさらに揺らがせてしまっています。

ここで描いているのは「ミッシェルが笑顔になれるもの」であり、「美咲が笑顔になれるもの」ではありません。ちなみに、最後に美咲が描いたのは……。

ここが実におもしろいところ。美咲はこころや北沢はぐみ、瀬田薫に口酸っぱく「ミッシェルは自分だ」と言いますが、3人は「ミッシェルと美咲は別人」と理解を示しません。これはいつもの光景ですよね。しかしその実、美咲は自分とミッシェルをわけて考えているのです。

人気があるのはミッシェルであり、自分ではない。それはそれで良いのでしょう。美咲は外や人前に出たがるようなタイプでもありません。そのかわり、彼女は「裏方」を通じてハロハピの中に居場所を作り、そこに「奥沢美咲」として存在していたのです。ミッシェルではなく。

はぐみや薫の働きによって、結果として「奥沢美咲」の居場所はなくなってしまいました。だから、困惑している。「自分の中で納得できる答えを探している」。

こう捉えると、ミッシェルと美咲が同じだと絶対に理解しない――というか、同一視しない“3バカ”の方が正しく思えてくるのだから不思議です。彼女たちはミッシェルと美咲、それぞれを独立した個として見ています。だから、同じ存在として見ている(当然ですよね、どちらも本人なのですから)美咲と食い違う。

「それはそれで良いのでしょう」と書きましたが、もしかすると美咲にとってミッシェルの人気は、意外と受け入れにくいものだったかもしれません。自分のようでいて、自分ではないミッシェル。その自分ではない“キャラクター”が、バンドのマスコット的存在となり、人気を博し、どんどん羽ばたいていく。「ミッシェルは私」という訴えは、ミッシェルを自分の元につなぎとめ、「奥沢美咲」のいる場所を確かなものにしたいという潜在的な思いと捉えても、おもしろいのではないでしょうか。

さて、悩める美咲に対し、薫は「どんな自分も自分」だと語りかけます。望まない姿でも、それが誰かを幸せにしているなら、それは愛すべき自分、胸を張れる自分だと。ステキな言葉ですよね。役者にもさまざまなタイプがいますが、薫は役と同一化するアクターかもしれません。それでいて、薫は薫自身=自分を見失っていない。役にではなく、役者としての自分に誇りを持っている。彼女は自分で自分の居場所を作り上げており、そのメンタリティを美咲に与えたのです。

これに呼応するかのように、ハロハピメンバーは美咲の「個」を尊重する選択を取ります。松原花音は、一人で悩む美咲を「それが美咲ちゃんなんだよ」と評し、はぐみは自分のやるべきことに注力して、美咲の悩みのタネを増やすまいとする。

で、こころですね。彼女は悩み続ける美咲の力になりたい。が、「悩む」という感情がわからないので、美咲の求めるものがわからない。これに対するアドバイスが「わかろうとしなくていいと思う」というのは、本当にすごいと思います、かのちゃん先輩。常に一歩引いて全体を見ているからこそ、それぞれの関係性が理解できるのかもしれません。この引っ込み思案なドラマーは、「一緒にいるだけで、元気がもらえて笑顔になれる」こころの稀有な才を、ただそのまま発揮すればいいと言うのです。

この子たちは――悩める美咲も含めて――「個」の考えがきちんとしています。この、めちゃくちゃ大人な子……大人な“個”たちは、自分のやりたいことにフォーカスし、決して他人の中に自分の居場所を作りません。でもそれは、お互いを放っておくという意味ではない。世界を笑顔にするために、ただできることをやり、自分たちもそれを楽しむ。時折ブッ飛んでいるように見えるハロハピですが、他者を含めた外的要因に左右されない彼女たちだからこそ、誰にも真似できないことができるのでしょう。

こころは「世界を笑顔に!」と言いながら、ハロハピでさまざまなことをやってきましたが、あれだけ細かいところまで覚えているのは、何よりまず自分が楽しんでいたからです。その思い出の中には、ミッシェルとともに「奥沢美咲」がいます。裏方ではなく、作曲者でもなく、「奥沢美咲」がそこにいる。ミッシェルとは別の個である美咲を、彼女がいる場所を、彼女自身を、みんながちゃんと見ています。世界を笑顔にする「ハロー、ハッピーワールド!」のメンバーは、6人なのです。

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