イベントレポート

【ネタバレなし】芯の強さと底知れぬ神秘性を感じたステージ―「南條愛乃 ライブツアー “N” 」名古屋公演レポート

 1曲目のイントロが響いた瞬間、ガタッと立ち上がる2人の男性。立ち上がらない大多数の観客。2人の男性は戸惑いながらも立ち続け、結局全員が立ち上がることに。1年前の1stライブとは多少異なる雰囲気が流れるなか、「ああ、いろんな人が来るようになったのかもなぁ」なんて思いながら、僕も立ち上がっていました。

 日本特殊陶業市民会館・フォレストホールで幕を開けた、「南條愛乃 LIVE TOUR 2016 “N”」。約3週間に及ぶライブツアーのスタートです。

 

南條愛乃が歌う“南條愛乃”

 ツアーの初日ということもあってか、心なしか緊張気味に歌いつつ登場した南條愛乃さん。ひとつひとつの音と今日の自分の声を確かめるように、冒頭の3曲を歌っていきます。

 今回は、2ndアルバム「Nのハコ」を引っさげてのツアーです。このアルバムは、南條さんが親交のある人々に対して「あなたの目に南條愛乃はどう見えていますか?」と問いかけながら制作されたもの。KOTOKOさんや川田まみさんを筆頭に、ご本人を含めてさまざまな方が作詞・作曲で参加されています。

 1stアルバム「東京 1/3650」が、上京してからの10年間を自分自身で楽曲に落とし込んだ「これまでの南條愛乃」を表現していたのに対し、今回はその過去もひっくるめた「今の南條愛乃」が表現されています。昨年、そして今回のライブも、南條さんが南條さんをパフォーマンスする場。自身の歌声で、“南條愛乃”が再現されていきます。

 一方で2ndアルバムに収録されていない曲も披露するシーンもあり、それらがライブに彩りを加えていきます。僕が今回ぜひ生で聴きたいと思っていた曲が3つ、そのうちの2曲はアルバム外だったのですが、披露してくれたのがうれしかったです。

 

垣間見えた「芯の強さ」

 南條さんのパフォーマンスを見ていると、とても強い芯があって、筋が通っているなぁといつも思います。ゆったりとした雰囲気や、時にはずぼらな(?)一面を見せる人ですが、時折それが素直に受け取れないタイミングがあるのです。

 先述したとおり、会場には色々な嗜好の人がいました。アイドル声優ライブのノリを持ち込む人、飛び跳ねたりせずに1stライブの雰囲気を大切にしようとする人、光るものは一切持たずにドラムの真似事をして、好きに楽しむ僕。アイドルの役で一躍名を馳せた人でもありますし、この雰囲気をひとつにまとめるのはなかなか難しそうだと感じます。

 それでも、今回のライブでは南條さんが全員に着席・消灯を求めて披露する曲がありました。ステージ上の演者がこれを要求するのは、なかなかにエネルギーを必要とすることです。ましてや、2,000人を超える大人数を相手では。

 南條さんはライブの雰囲気を何が何でも統一しようとはしません。座って聞いていてもいいし、執拗に煽ったりすることもない。でも「こういう表現をしたい、するよ!」という時はきちんと要求する。そのエネルギーを生み出す芯の強さを今回も感じましたし、これは自分とライブに来る人を「一人の人間同士」として見ているからやることなんじゃないかと思いました。

 

神秘性すら感じたステージ

 先にも書いたとおり、「Nのハコ」は(本人を含めた)多種多彩な人々が“南條愛乃”を描いたアルバムです。いわば、南條さんを十三面のダイスにしたようなもの。1stアルバムに続いて南條さん自身をテーマにしているのを見ていると、自分自身をものすごく知りたがる人なのだろうという印象を受けます。いくつかのインタビューを読むと、コンプレックスの裏返しでもあるようですが、そうして自分自身とずっと向き合ってきたからこそ、自分の芯が見つけられたのでしょう。

 それはアルバムの初回限定盤に収録され、今回のライブでも1曲披露されたカバー曲にも見て取れます。カバー曲は、言わずもがな他人の曲です。カラオケならまだしも、それを自分の作品として出すには、他人の作品を自分の中に落とし込み、自分なりに表現しないといけない。これに挑戦し、また大観衆の前で披露したことこそ、自分自身と向き合うことの表れのような気がしてなりません。自分と対峙するということの、新たなチャレンジの形です。

 今回のツアーは、前回とはまた別の“南條愛乃”が披露される場で、まさにその通り、色とりどりの歌とともに彼女自身が表現されたわけですが、どうにも「13」では足りない気がするのです。

 名古屋公演では1階席の下手4列目、真ん中寄りの通路沿いという、南條さんが実によく見える席で観ることができました。そこから見ていても、歌とともに表現される“南條愛乃”とは違った南條さんが、あの身体の中に潜んでいるような感覚を抱きました。例えるなら、今回のように生バンドがアレンジを利かせ、CDとは異なる音色を楽しませてくれるように。

 その潜んでいるものの正体は、残念ながらいちファンにはわかりません。もしかすると、ご本人すらわからないものなのかもしれない。でも、あれだけ人前に出るのが嫌だったと語っている人が、2作続けて自分自身を作品として見せ、大勢の人の前で自分を表現して見せている。そこに得も言われぬ神秘性を感じます。今回のライブはその神秘性も相まって、楽しかったというより「気持ち良かった」という感情が湧いてきたライブでした。

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