本の感想

楽しむことが輝くこと〜『オリンライジング!』2巻

 1年以上ぶりの『オリンライジング!』新刊でございます。『オリンライジング!』とは、風華チルヲさんが描く、ライトノベル『アイドライジング!』のコミカライズ外伝のこと。僕はラノベを読まないので、正直、初めはお世話になっているチルヲさんの単行本ということで拝読したのですが、この外伝の主人公であるオリンの生き様(まさしく「オリンライジング」ですね)がカッコいいのなんの。その生き様の続きを楽しみにしていました。

 

 基本的な背景や、オリンの人間性については1巻の感想(掴みにいく女〜『オリンライジング!』感想)を読んでいただくとして、今回は2巻のエピソードについて書いていきます。オリン幻のデビュー戦もさることながら、この巻のハイライトは、アイドライジング界の最高位「オペラ・オービット」であるウルシダニ・ユカリとの一連の出来事でしょう。

 

オリンとは対照的、ウルシダニ・ユカリ

 ウルシダニ・ユカリという女性は、たった4人しかいないオペラ・オービットというアイドライジング界の最高峰にいながら、アイドルをやる理由を見出だせない人として描かれています。祖父が重役を務める会社に所属し、祖父の面子を潰すまいと、会社のためにアイドルをやっている。

 なおかつ、縁故採用で社員となり、アイドルになったユカリは、目の前の壁をひとつずつ乗り越えていく達成感や快感を覚えたこともない。まばゆく輝く他のオペラ・オービットとは明らかに異なる存在として、自己を認識しています。ひと言で表すと、外的要因だけでここまで来てしまったというわけです。相当強固に折り合いをつけられなければ、外的要因と内的要因とのズレに苦しむのが人間の自然。ご多分にもれず、ユカリもその一人でした。

 

 ユカリは、オリンとは対照的な存在ですね。美貌に自信があるオリンは、それを活かした仕事が(まともに「アイドルらしい」仕事が)舞い込んで来るものだと信じ込んでいました。しかし、シンデレラガールでもない駆け出しアイドルのオリンに来るオファーは、きぐるみで身を包むという、考えていたものとはかけ離れた仕事。念願のアイドライジング出場機会を得ても、それは「乱入者」というイレギュラーなものでした。

 でも、オリンは与えられた「場所」をとても大事にします。その場所で輝くにはどうすればいいのか、とことん考え、突き詰めるのです。

 

オリンのベース

 2巻で、こんな一幕があります。全国CMのオファーが来たと思いきや、その役は顔も出ないきぐるみで踊る端役。しかもメインは、アイドライジングのオーディションに合格したオリンから、そのポジションを奪ったアイザワ・モモ。自らの魅力を最大限に引き出すモモとは裏腹に、心中穏やかじゃないオリンはうまくこなすことができません。そんなオリンは、モモとの会話をきっかけに復活し、仕事を全うしてみせた――。

 多分、オリンはモモから見ても「アイドル」になりたかったんじゃないかと思います。相手が自分にとってどんな人であろうと、意識してしまう、見てしまう、気にしてしまう、そんな存在。だって、オリンにとってモモがそうだから。そうなるためには、モモを失望させるわけにはいかないのです。きぐるみをかぶったまま会話し、相手がオリンであることをわかっていなくても、「一緒に踊るの楽しみ」と言ったモモの「楽しみ」を裏切るわけにはいかない。だから、何がなんでもこの仕事を完遂させたのです。

 

 この考えは、アイドルであるオリンのベース。信頼されているとおりの自分を演じ切り、期待されている展開を裏切る。いい意味でね。そうやって自分を輝かせる。そのためにどうすればいいのか、とことん考え、突き詰める。これが、アイドルをやるオリンの楽しさなんですね。楽しさって色々あるかと思いますが、どうすれば自分がやっていることをもっと良くすることができるかを考えるって、楽しさの中でもひときわ大きな要素です。内側から発された思いに全力で向かい合い、楽しんでいるから、輝ける。

 ただの勝ち負けだけがアイドライジングじゃない。自分が輝き、相手をも輝かせ、2人が思う存分楽しむことで、観客を最大限に楽しませる。オリンにとってのアイドライジングの本質と、その方法を、2度目のバトルでオリンはユカリに伝えたのではないでしょうか。

 こんなふうに対戦相手さえも輝かせるアイドルというのは、もしかするとアイドライジング界でもオリンが初めてかもしれませんね。

 

 “クイーン” マツリザキ・エリーとの「共演」を見たユカリが、「私もそちら側に行きたい」とオリンに伝えます。自分もオリンみたいになりたいと言う。あこがれという内的要因を引き出すのがアイドルにできる大きな役割だとすれば、オリンは初めて誰かにとっての「アイドル」になれたのです。

 ウダっちの言う、「君の生き様が初めて誰かの人生を動かしたよ」という言葉のとおり、2度目のバトルでオリンに勝利したユカリの口上は、いつもと違っていました。「妾は諸君のために戦おう」。観客のいないシミュレーションエリアでも、彼女には聴こえていたのです。ユカリに楽しませてもらい、彼女を後押しするファンの声援が、初めてユカリの耳に届いた瞬間でした。

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