野球

名文が語るイチローの記録

本日、イチロー選手の2つの記録が途切れました。年単位の連続200本安打と、打率3割。いつか途切れるものと分かっていても、ずっと続くような気がしていたのは僕だけではないはず。10年も打ち続けるなんて本当にすごい、でもやっぱり残念……。誰もが持っているであろうそんな心境を、さわやかな風にあててくれたのが本日付の朝日新聞の「天声人語」です。どうも日毎に上書きされてしまうっぽいので、リンクとともに全文引用します。

 

 途切れた記録の値打ちは、メディアの騒ぎぶりが語る。平幕から横綱まで、足かけ4年の負け知らず。双葉山の連勝が69で止まった時は街に号外が出た。名勝負を伝えるNHKラジオは「70は古希、古来まれなり」と始まる。和田信賢アナウンサーによる伝説の実況だ▼「……双葉山敗る双葉山敗る。時、昭和14 年1月15日、旭日(きょくじつ)昇天まさに69連勝。70連勝を目指して躍進する双葉山、出羽一門の新鋭、安芸ノ海に屈す」。国技館には煙草(たばこ) 盆やミカンが飛び、和田アナは座布団を被(かぶ)って放送した▼より静かに、されど厳かに尽きるのは、イチロー選手が大リーグで続けるシーズン200安打だ。最終戦を残しあと16本。空前の延長戦にでもならぬ限り「11年連続」はない▼オリックス時代の1994年から続く打率3割台も終わる。あれほどの打者である。昨季までとの違い、すなわち来月38歳になる肉体の近況については、当人の弁を待つしかない▼200安打も3割も、一球ごとの集中を点描画のごとく重ねての労作。それを何年分も積んだ高みで、彼はバットを振る。敬意を込めて、記録の途絶ではなく確定としたい。04年の最多安打262本に次いで、 しばらくは誰もさわれない「古来まれ」なる数字が固まった▼双葉山の偉業に白鵬が挑戦し、あと6勝に迫った興奮は記憶に新しい。イチローが残す記録も、夢多き後進たちが挑むべき、真新しい壁だ。塗り立てのペンキも香(かぐわ)しく、フィールド・オブ・ドリームスにそそり立つ。

2010年9月29日(木)付 asahi.comより
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なぜ打てなかったか。肉体が衰えた、カッターに苦戦した、積極性が落ちた……色々と言われています。でも、今は「敬意を込めて、記録の途絶ではなく確定としたい」です。いきなり「原因究明だ!」と息巻くのはナンセンス。これほど読後感が爽快な文章に出会えたことは、僕らファンにとってとても幸せなことだと思います。

262本を打った時のような、瞬間的な記録には瞬間的な興奮があります。思い出しやすくもあります。でも、何年も積み重ねる記録のすごさは、イマイチピンとこないかもしれません。10年に及ぶ記録をずっと見守っていた僕らファンは、途切れたばかりの今、まだその記録という名の壁の上に立っています。いつしかその壁を降りて、雲の上まで伸びるそれを下から見上げ、ため息をつく……そんな時がきっと来るのでしょう。その瞬間、初めて僕らはイチローという選手の偉大さを本当の意味で実感するのかもしれません。

イチロー選手は記録について試合後、

「200に一応、区切りが付いた。続けることに追われることがなくなって、ちょっとホッとしています。200本って、結構難しいんです。皆さんが思っているより、もうちょっと難しいんですよ」

イチロー「200本って結構難しいんです」

と、笑顔を交えて話したそうです。

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