リトルバスターズ!

リトルバスターズ!第14話「だから僕はきみに手をのばす」感想

litbus14

 

 美魚ルートクライマックスです。短歌コンクールで美魚の書いた歌が見つかるシーンで「うわぁーっ」とこみ上げてくるものがあったのですが、物語的に重要なところは美鳥が生まれた背景を美魚が語るシーン、そして理樹が美魚を取り戻すラストです。

 

 美鳥は、美魚が生んだ存在でした。絵本の世界に没頭するのが好きな美魚が、鏡の自分に話しかけると、美魚ではないもう一人の美魚が出てきます。それこそが美鳥でした。

 ちょっと気になったのは、心理学的にこうやって別人を創り上げる現象って何かあるんですかね? もう一人いるんだから二重人格とも違うし……。ただ、鏡の中の自分に話しかけるところで「ゲシュタルト崩壊」を思い出しました。鏡に向かって「お前は一体誰だ?」と毎日問いかけ続けると、本当に誰だかわからなくなるそうです。自分を別人と認識するんだとか。もっとも、美魚の場合は自己が崩壊するどころかもう一人増えたのですが……。

 

 美魚の創り出した妹「美鳥」は、美魚だけが認識できる存在でした。他者からすると、誰かに話しかけるように独り言を言っているようにしか見えない。そりゃお母さん病院に連れて行きます。「治療」の結果、大切に思っていた妹のことを忘れた美魚はしかし、若山牧水のあの歌に出会うことで衝動的に思い出します。自分には美鳥がいたこと。自分が忘れたことで、美鳥を空と海の狭間で孤独にさせてしまったこと。

 

 宙に浮かぶ衣服だけの自分の影は、美鳥が出て行ってしまった事実を美魚に突きつけ続けたことでしょう。
 「私が忘れてしまったから、美鳥は消えてしまった。そのことをあの子は恨んでいるでしょう」
 自分が美鳥の存在を消してしまった罪悪感もあったと思います。同時に、唯一心を許し、唯一自分のことを気にかけ、わかっている存在が消えてしまった寂しさも多分にあったと僕は思います。罪滅ぼしでもあり、自分を寂寥感から解放させるためでもある。だからこそ、

 

 「私は孤独になりたいのです。海のあをにも、空の青にも溶けずに漂う白鳥のように。痛みや悲しみを超えて私が私であることを何者にも侵されず、永遠であることを。その方法は唯一孤独になることなんです」

 

 最初からたったひとつの存在であれば、痛みや悲しみに惑わされることもなく、永遠の=確立された存在でいられる。美魚の考えはこうです。
 しかし、理樹は違いました。これすっごいグッときたので、ブロッククォートつけちゃいますね。

 

 

「君が望むまでもなく、僕らは孤独なんだ。人の心なんてわからない。だからこそ触れ合って、分かり合おうとするんだよ。僕らは誰かと共にあることで、自分自身を知るんだ。君は僕達と触れ合うことで、他の誰でもない西園美魚になるんだ」

 

 

 わざわざ自分からひとりになることなんてない。もう人間は最初からひとりひとりなんです。だからこそ「分かり合おうとする」。分かり合おうとするためには、相手を認識しなければいけません。相手に認識されて初めて、人は個となります。西園美魚という名前をもつ、ひとりの存在になるのです。

 

 他人の認識というのは光なんですね。光に照らされて、初めて自分という存在は明るくなる。見える。そして、影ができる。影は、他者からの認識の証なのです。「それが、お姉ちゃんが、本当に欲しかったものなんだよ」。

 

 美魚の人生の中で、初めてなのかもしれません。西園美魚を西園美魚として認め、対等に触れ合う「仲間」。それこそが理樹たちリトルバスターズだったのではないでしょうか。たたまれた日傘のカットに込められたメッセージがとても染み渡ります。美魚の周りにはリトルバスターズという光があり、その光を受けて自分には影がちゃんとできている。それをなんと言うのか、すくい上げられた美魚の言葉がすべてです。

 

 「この世界に生きています。生きています!」

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