はねバド!

“独りの自分と仲間の存在”は、相反するものじゃない―「はねバド!」第5話感想

中学からここまでの期間、羽咲綾乃の心情は大きく揺れ動き続けています。

自分がバドミントンで負けたから母・有千夏がいなくなったと思い込んだ綾乃は、母を取り戻すために戦い、勝ち続けてきました。しかし、それでも有千夏は戻ってこなかった。ならばバドミントンをやる意味はない。

バドミントンから距離を取った綾乃でしたが、藤沢エレナの計らいや荒垣なぎさたちとの関係によってその楽しさを思い出し、バドミントンをやる理由を再発見。そして合宿に来る頃には、仲間のために勝ちたいと思うまでになった。彼女の中で、バドミントンに対する動機が目まぐるしく変わり続けています。

ただ、バドミントンを再開したとはいえ、母に戻ってきてほしいという気持ちは心の奥底に残ったままでしょう。母を求める気持ちよりも、勝って仲間になりたい思いがまさっていたところ、コニー・クリステンセンの挑発により、前者が再び顔をもたげてしまったのです。

だから、「分かんなくなっちゃった」。今、何のためにバドミントンをやっているのか。

迷いの沼から綾乃を引っ張り上げたのが、泉理子でした。一人で迷わなくていいという言葉は、今までの綾乃にはかけられることがなかった言葉。迷いをなくすには十分でしょう。第2ゲームのインターバルで理子にハイタッチを求めた綾乃の姿は微笑ましく、またその顔には充実感が広がります。「勝って、仲間になるんだ」。

一方のコニー。数秒間はさまれたカットからは、ラケットを持っているのに部屋の中で小さくうずくまる女の子が映し出されていました。綾乃のように母が相手をしてくれるでもなく、友達もいない。なぜそうなったのかは明らかではありませんが、ここから一人で這い上がってきたことは想像がつきます。「仲間なんていらない」は、そんな自分を必死に肯定する言葉。一人で勝つことだけが、バドミントンをする自分の存在証明なのです。

「仲間になるんだ、勝たなきゃ」と思いを強める綾乃との試合は、悲壮感すら漂います。単なる一試合ではなく、コニーの過去と綾乃の未来をかけた戦いになっているのです。

最後は、ずっと試合に入っていなかった多賀城ヒナのスマッシュで勝負がつきました。ガットが切れる不運も重なった綾乃は「負けてない」と虚勢を張ります。「勝って、仲間になるんだ」という言葉の通り、綾乃は仲間になりたかったのです。そのためには、期待に応えて勝つことが絶対条件だと思っていた。素直すぎて子どもっぽい綾乃のパーソナリティ、そして彼女の育ってきた環境が垣間見えるシーンでもあります。

綾乃は、勝つことでしか他人と関わることができない。勝たないと、自分を自分と言うことができない。根っこの部分では、綾乃もコニーも同じです。勝つことでアイデンティティを確立させてきた。加えて綾乃は、負けて母を失う経験をしている。だからこそ、負けが認められないのです。負けたらまた自分の周りから人がいなくなってしまう。せっかく仲間になれそうだったのに――!

そんな1年生にはっきりと物を言ったのは、伊勢原空でした。「言い訳、しないでよ」という言葉の真意は、作中で空が語った通り。「カッコよかった」んだから、言い訳をしないでほしい。そして仲間だからこそ、言い訳なんてしないでほしい。海老名悠が驚くほどストレートな言動は、綾乃を仲間だと認めた何よりの証拠です。

これは綾乃にとって初めての、そして大きな出来事です。「自分のことを嫌いだったという人が」「勝ってもいないのに」仲間だと言ってくれた。勝ち負けや才能ではなく、本気のプレーで、綾乃は空の仲間になれたのです。

理子が完全に妻の顔

仲間ができた子がもう一人。ヒナにひどいことをしたかも、とひとりごちるコニーですね。コートでは大いに強がっていたコニーですが、あの局面でヒナが介入しなければ、リタイアするハメになっていたかもしれない。そんな“弱み”に見事(?)つけ込んだヒナと志波姫唯華。文字通り「裸の付き合い」でコニーを懐柔することに成功しました。若きデンマーク代表もまた、素直な心を持つ少女だったのですね。

仲間を知らなかった子、仲間を否定していた子が、ともに仲間を得る。両者はきっと、新しい感覚に目覚めたことでしょう。特にコニーですよね。独りだった自分を肯定するために仲間を否定してきましたが、この2つは相反するものではありません。

孤独な時期を耐え、代表プレーヤーに上り詰めるまで強くなったのは称賛されるべきこと。でも、だからといって仲間を持たなくていいわけでも、持っちゃいけないわけでもないのです。仲間がいても何かを手に入れることはできるし、仲間がいるからこそ手に入るものもある。綾乃がそうだったように。強くなる道のりは、いくつもあるのです。

ただ、当の二人の関係は一筋縄ではいかない様子。有千夏のことを「私のママ」「生き方を教えてくれた」と表現するコニーは、「仲間ができたって、ママに認められなきゃ結局、バドミントンをやる意味なんてない」と言います。

有千夏の実の娘に勝ち、“育ての親”に自分の価値を証明したいという強い気持ちをぶつけてくるコニー。ただでさえ当たり弱い綾乃は、自身が求めていた“母の所有権”を主張してくる相手に、ただただひるむばかりです。

バドミントンの楽しさを思い出し、仲間ができ、そして見知らぬ外国人の少女と母が逢瀬を重ねていると知る綾乃。そうなれば、母に戻ってきてほしい気持ちを押さえ込み、「お母さんなんてもういらない」となるのは自然なことです。だって、勝ち負けに関係なく自分のそばにいてくれる人たちが、もうできたのだから。

自分の意に反した、メンタル的にヘヴィな試練ばかりが降りかかる綾乃。次の試合で彼女は、どんな顔でバドミントンをするのでしょうか。

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