はねバド!

藤沢エレナだけが与えられる、羽咲綾乃の“理由”―「はねバド!」第3話感想

原作とは異なり、三浦のり子が幼なじみから高校からの同級生になったぶん、藤沢エレナと羽咲綾乃の“幼なじみ感”はさらに増しています。1話から、綾乃はエレナと常に一緒にいますよね。

ただ、それはここ1,2年のことだった様子です。中学では、綾乃はバドミントン部に所属しており、エレナは綾乃以外の友達と仲良く話している姿が見受けられます。しかし綾乃の母・有千夏が姿を消してからは、綾乃は「エレナと一緒の学校に行く」とべったり。もしかすると、エレナは綾乃にとって「母親」に近い存在だったのかもしれません。

バドミントンをずっと一緒にやっていた有千夏がいなくなり、“バドミントンしかない”綾乃の居場所はどんどん不安定になっていきました。中学の部活は弱すぎると言ってやめ、次に入ったクラブチームでは芹ヶ谷薫子に負け、母が家を出ていく。綾乃は「母を取り戻す戦い」を独りで始めます。

圧倒的な強さで勝ち続けるものの、有千夏は自分の知らないところで、自分ではない子を育て上げていた。バドミントンをやる理由を失い、「天才バド少女」から「ただの中学生」になった綾乃の居場所は、もうエレナのそばしかなかったのです。

そんな綾乃が、泉理子や海老名悠、伊勢原空たちに歓迎されていることを、エレナはすぐ近くで見ていました。「自分の居場所」の定義は難しいものですが、「自分の力を発揮でき、他者ないし自分自身に認められるところ」とはその一つでしょう。北小町高校バドミントン部が綾乃の居場所になりつつあるのを、エレナは感じています。

では、エレナの居場所はどこなのか? 綾乃の居場所はエレナのそばだったと前述しましたが、それは逆にしても同じ。エレナの居場所は綾乃のそばでもありました。おそらく彼女はそれを自覚し、綾乃をどうにかするのは自分にしかできない仕事だと思っていたはずです。荒垣なぎさに「マネージャーがどうこうできる問題じゃない」と言われて怒ったのは、そのため。

ただ、お互いのそばが居場所とはいえ、両者の間には決定的な違いがありました。すなわち、元来綾乃は“コートの中”におり、エレナは“コートの外”にいたということです。

学校にも行かず家にも帰らず、当然部活にも出ない――居場所がない、バドミントンをやる理由がないと話す綾乃に、“コートの外”にいるエレナはかける言葉を見つけられませんでした。でも、綾乃にバドミントンをやる理由がなくても、綾乃がバドミントンが大好きなことはよく知っている。だから、“コートの中”にいる同類……「バドミントンが好きで好きで仕方ない」人に、綾乃との対話を依頼したのです。

この割り切りが、エレナの最大のパーソナリティ。高校生らしくない、といっても過言ではありません。大人でさえも、誰かに頼られたりするとうれしいものですし、慕ってくれる人を自分の庇護下から追いやることは、そうそうできることではありません。もっと慕われたいがために、つい「自分の手で全部助けてあげよう」と思ってしまいます。

でも、バドミントンの才能にあふれた綾乃の居場所として適しているのは、自分のそばではないとエレナは判断。さらに自分ではうまくできない、わからない部分はなぎさにアウトソーシングしています。こんなことができるのは、心の底から綾乃のことを考えているからなんですよね。

コートの中にいる幼なじみを見て、コートの外にいるエレナは「寂しかった」と話します。同じ居場所ではないからでしょう。バドミントンをやめた綾乃は、自分と同じコートの外にいる。それでも、「綾乃はバドミントンやった方がいいと思うよ」。だって、バドミントンをやっている綾乃が、本当に楽しそうだったから。

これは、コートの外からずっと綾乃を見ていたエレナだからこそ実感できたことではないでしょうか。コートの中、ネットを挟んだ向こう側にいるのは対戦相手ですし、自分自身のことはもとよりよく見えません。でもコートの外から見た綾乃は、小さい頃からエレナよりもバドミントンに夢中。そんな幼なじみの姿を、彼女は10年以上見続けていたのです。

羽咲綾乃にバドミントンをやる理由を与えること。確かに、「マネージャー」にはどうにもならないことだったかもしれません。けれどエレナはマネージャーであると同時に、エレナだった。これは、「藤沢エレナ」だからこそ、できたことでした。

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