高海千歌が最高に愛しているモノ―ラブライブ!サンシャイン!!第10話感想

 「やっと逃げるのを諦めた?」

 小原鞠莉が、頑なにスクールアイドルに復帰しない松浦果南を焚きつけようと口にした言葉です。現実と向き合う気になったかと、強い口調で問うています。

 東京の学校から転校してきた、ピアノが大好きな少女・桜内梨子もまた、この言葉を耳にしました。彼女には、東京でのピアノコンクールで、曲を弾けずにステージを後にしたという苦い過去があります。ピアノから“逃げた”過去です。

 あれからいくつかの月日が流れた今、梨子は何と向き合っているのでしょうか。

 

逃げることとは

 そもそも「逃げる」とはどういうことでしょう。鞠莉が言った「逃げる」は、辛い過去から目を背けること、チャレンジしないこと、諦めることです。「逃げるのを諦めた?」は、「諦めるのを諦めた?」と言い換えられます。

 この「逃げる」の中には、「選択」という行動が内包されています。鞠莉の言葉のケースで言えば、スクールアイドルを続けるか、続けないかの「選択」です。梨子はこの「選択」を、合宿の中で行っていました。

 梨子の元に届いた、東京でのピアノコンクールへの出演依頼。「チャンスがあったら、もう一度って気持ちもあった」このピアニストは、合宿でAqoursとして過ごしていくうちに、自分の中で学校やメンバー、そしてスクールアイドルそのものの存在が大きくなっていくことを感じます。そして彼女は、ラブライブ予選と同日に行われるピアノコンクールに出ないことを「選択」しました。

 「逃げる」の中には、「選択」という行動が間違いなく入っています。しかし、この梨子の「選択」が「逃げる」であるとは言いづらい。受動的な選択ではなく、実に能動的な選択だからです。逃げではなく攻めと言いましょうか、実に前向きな姿勢です。

 今、大切なのはこの街、この学校、この仲間で、「今の私の居場所はここ」。普通に考えれば、それでオーケー。何の問題もなく、一丸となってラブライブ予選に臨むことができます。

 しかし、高海千歌はそれを良しとしませんでした。

 

ピアノは梨子の何なのか

 ピアノコンクールに出場しないことを梨子から聞いた千歌は、「えっ」と驚いています。千歌はてっきり出るものだと思っていたわけです。彼女は、梨子を夜中の学校に連れ出し、以前のコンクールで弾くはずだった曲「海に還るもの」を弾いてほしいと頼みます。

 何に時間を費やしてきたのか? というのは、その人の人生そのものを表しています。「海に還るもの」は、梨子が「自分で考えて、悩んで、一生懸命気持ち込めて作った曲」、つまり梨子そのものです。梨子にとってピアノは、ずっとがんばってきたもので、大好きで夢中でのめり込めるもので、将来もやりたいもの。ピアノは、梨子自身なのです。だから、スクールアイドルを選択した後も、楽譜はいつも目の届くところにありました。

 東京×梨子×ピアノの組み合わせには、無限の可能性があります。しかし梨子はそれらを捨てて、千歌から誘われたスクールアイドルを選択しました。彼女を執拗に誘った千歌の胸の内には、果南が鞠莉に抱いた申し訳なさに近いモノがあったかもしれません。

 ただ、千歌はスクールアイドルをやめるとは言いませんでした。スクールアイドルは、梨子が選んだものだからです。ではなぜ、千歌は梨子にコンクールに出てほしいと頼んだのでしょうか?

 

千歌が梨子にコンクールへ出てほしいと願った理由

 この町や学校、そしてAqoursが好きだという梨子と、ピアノが大好きだという梨子は、8月20日に共存できません。でも千歌は、梨子に向かってこう言うのです。

「スクールアイドルを一緒に続けて、梨子ちゃんの中の何かが変わって、またピアノに前向きに取り組めたら、すばらしいなって。ステキだなって」

 千歌は、スクールアイドルのために梨子を誘ったんじゃない。梨子のためにスクールアイドルへといざなったのです。だから、ピアノが好きで、ピアノとともに人生を歩んできた桜内梨子という人間を尊重し、コンクールに出てほしいと願う。

 「歌詞は?」と梨子が何度も催促するのは、スクールアイドルに本気の証拠。千歌が大切にしている「スクールアイドル」に真正面から向き合う梨子のように、千歌も梨子のピアノを、ともすれば本人よりも大事に思っています。ピアノとともに歩んできた梨子と、今スクールアイドルを選択した梨子、そしてまたピアノとともに生きるであろう将来の梨子。千歌は、梨子の過去、現在、未来すべてを抱き締めているのです。

 東京での挫折を機に、その先にある答えを見つけるべく、千歌はスクールアイドルを続けることにしました。同じように、「海に還るもの」をステージの上で披露した先に見えるものを、海の音を表現した上で聞こえるものを、梨子に見つけてきてほしい。そして、還ってきてほしい。千歌はこの海の町で、ずっと待っています。

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