桜内梨子が探していた光―「ラブライブ!サンシャイン!!」第2話感想

 実は、小学校から高校2年までピアノを習っていました。練習にはまったく不真面目でしたが、教室の発表会にも出て人前で弾いた経験もあります。先生が亡くなったのを機に習うのもやめてしまったので、かろうじて今でも弾けるのは大好きだった堀江由衣さんの「桜」くらいです。

 楽器の演奏は、一度音を鳴らしたが最後、止めることはできません。止めてしまったら、曲でなくなってしまうから。特にピアノは音階がはっきりと区切られていてミスが目立ってしまう楽器ですから、人前で最初の一音を鳴らすのは、とても勇気の要ることです。ピアノの演奏は、自分の力量や世界観を、繊細な指の動きを通じて他人にさらけ出す行為なのです。

 桜内梨子は、その一音を奏でることができませんでした。

 

梨子が「見た」海の音

 音ノ木坂学院在籍時に出席したピアノの発表会。梨子がそこで弾こうとしたのは「海に還るもの」という曲でした。しかしピアノの前に座った梨子は、その震える手を鍵盤の上に置くことができません。極度のプレッシャーなのか、自信がないからか、それとも自分の指では「海」を表現できないと思ってしまったのか――梨子は、演奏することなく、ステージから降りてしまいました。満員のホールで何もできない姿を晒すのは、誰もいない講堂でパフォーマンスをすることよりも辛いことかもしれません。

 小さいころから大好きだったはずのピアノ。でも、最近は上達しないし、やる気も出ない。だから環境を変えようと思ったという梨子。要するに、好きなはずのピアノが全然楽しくないのです。これが、彼女の抱えている問題。

 なぜ楽しくないのかというと、挫折してしまったから。挫折をどう乗り越えればいいのかわからず、ピアノを引くのが怖くなってしまったから。考え抜いた結果、「海の音を聞ければ、何かが変わるのかな」と思った梨子は、まだ春先の駿河湾に飛び込もうと迷走してしまいます。

 海にこだわる梨子の姿を見た高海千歌は、彼女を海の中に連れて行きます。「景色はこことは大違い」のはずの海の中はしかし、「真っ暗」です。さもありなん、海の中に潜った梨子は、下、海の底に目をやってしまっていました。“大違いの景色”を知る千歌と渡辺曜の2人は、もう一度海の中に梨子を誘い、下ではなく上、つまり「光」のある方角を指します。

 上を見上げれば、「光」がある。「光」があると、周りに何があるか、どこに向かえばいいか分かる。梨子はここで初めて海を見ることができました。3人が聞いた“海の音”とは、梨子の目に映った、光に照らされた海そのものなのかもしれません。

 しかし、梨子が過去の挫折を乗り越えるには、海の音だけでは足りませんでした。彼女が海の音に期待したのは「何かが変わる」こと。そう、海の音を聞いて何かが変わることがあっても、自分で何かを変えなければならないのです。

 

あなたに必要なのは

 そもそも、梨子が変えたいものとは何でしょう。大好きなはずのピアノを楽しめない今の自分ですよね。梨子は「ピアノを弾いていると、空飛んでるみたいなの。自分がキラキラになるの。お星さまみたいに」と楽しそうに話していた頃の気持ちを取り戻したい。この2話には「キラキラ」というワードが何度も出てきますが、それは「楽しい!」という気持ちそのもの。つまり、梨子は大好きなピアノを楽しみたいのです。

 梨子がピアノを楽しむためには、過去の挫折を乗り越えなければなりません。そのためには、自分が目指す場所を見つける必要があります。まだ梨子は、海の底を見てしまっている。彼女には「光」が必要なのです。では、「光」とはどんなモノなのでしょうか。

 曲の前にまず作詞をすることになった2年生3人。「スノハレみたいな」恋の歌を書きたいと言って聞かない千歌に曜と梨子は、千歌自身のスクールアイドルへの気持ちを表現してみたらとアドバイスを送ります。

 このアドバイスが、千歌にとっての「光」になりました。したいこと、目指す場所をはっきりと示してくれる「光」。それがあるからこそ、前に進むことができる。ペンを走らせる千歌の表情、言葉、しぐさから、スクールアイドルが好きという気持ちがあふれだします。その姿は、まさしくキラキラしていました。「光」とは、こうして誰かの背中を押してくれるモノなのです。

 しかしキラキラしている千歌を見る梨子の顔は、浮かばないまま。目に映る友人を通じて、対象的に暗闇の中にいるままの自分が見えてしまったのかもしれません。でも、梨子だってキラキラしたいのです。ピアノを心から楽しみたいのです。執拗な千歌の勧誘をひたすら「ごめんなさい」と断り続けられるのは、自分にとって大事なものをちゃんとわかっているから。それくらい、梨子はピアノが大好きなのです。

 だからこそ、千歌は梨子に手を差し伸べ続けます。大好きなものに対する真剣な気持ちをよく知っている梨子は、千歌が本気で挑むスクールアイドルを気分転換にすることは「失礼」だと拒みますが、千歌にそんなことは関係ありません。千歌は「今の私から、変われるんじゃないか」と思ってスクールアイドルを始めるからです。

 千歌は「あなたみたいにずっとピアノをがんばってきたとか、大好きなことに夢中でのめり込んできたとか、将来こんな風になりたいって夢があるとか、そんなのひとつも」なかった子。ゆえに、ずっとがんばってきたモノがある梨子を尊敬しているのではないでしょうか。彼女は、ルックスで誘った1年生はともかく、曜にも松浦果南にも言わなかった「スクールアイドル始めませんか?」という言葉を、梨子にだけはぶつけました。それだけ、千歌にとって梨子は大きな存在なのです。

 「何やっても楽しくなくて、変われなくて」どうしたらいいかわからない梨子に、右手を差し出す千歌。気分転換でもいい。失礼でもいい。今の自分を変えたいと思っているのは、あなたも私も同じ。だったら、スクールアイドルをやろう。「プロのアイドルなら私たちはすぐに失格。でも、スクールアイドルなら、やりたいって気持ちを持って、自分たちの目標を持って、やってみることはできる」から。トビラを開けるのに必要なのは、「変わることを恐れずに、突き進む勇気」だけだよ。

 月が青白く光る夜は、まるで海の中のよう。そこで梨子は、本当の“海の音”を聞き、「光」を見つけました。

 

関連記事

  1. 拓ちゃん 2016.07.12 7:02pm

    梨子の件に関しては差し挟む余地が無いくらいに書いてもらえましたので、個人的に愛しの『Love Love 3年ズ』についてw

    第2話でダイヤ様と果南がμ’sのことを以前から知っていることは確定的となりました。
    果南はμ’sを知らない梨子に対し「へぇ~、知らないんだ」と口にし、ダイヤ様は……もう今更なくらいのガチだったわけですが。
    1話でも垣間見えた通り、少なくともダイヤ様には過去にスクールアイドル、ラブライブ!、μ’sに関して何らかのエピソードがあったことを予想させます。

    その上でのOPでの俯き、そしてEDでの肩組みを見て──3年ズのドラマはよ!──と気が急いてしまいます。
    未だほとんど話に絡んでいないマリーも含め、今はまだ妄想するレベルでしかありませんが、楽しみで仕方ありません。
    今回はコメントというよりか、私の今後の視聴目標を述べただけでしたね。失礼しました。

    第2話で象徴的に出て来ていた『キラキラ』
    μ’sに於いても「ぼららら」や「キラセン」で印象的に使われていました。
    梨子にとって、“純粋”に音楽を楽しんでいた時の心。
    千歌にとって、μ’sに出会い、自分を変えられるんだと気づかせてくれた“輝き”。
    どちらも「ワクワク」といった未来に向かって広がる期待感が『キラキラ』という言葉で象徴されてたように思います。
    それはまさに「君のこころは輝いているかい?」の冒頭─

    ♪今、みらい 変えてみたくなったよ だって僕たちは まだ夢に気づいたばかり

    ─これこそが『キラキラ』の源泉であるような気がしてなりません。
    そこに至るまでのドラマが凝縮されてあの歌詞となり、9人で初めて歌い舞うそのシーンを今から思い浮かべるだけで泣けてきます。
    実際、聴いてて涙が出る様になってしまいました。

    まだまだあの9人には時間が必要だとは思いますが、その瞬間を今から心待ちにしています。

    • ばかいぬ 2016.07.13 11:26pm

      >拓ちゃんさん
      3年生たちは1話、2話でちょっとずつその姿が顕わになっているのが、もどかしくも楽しみですね!
      3話はもっとマリーの出番があるといいなぁと期待しています。
      EDの肩を組む3人の姿は熱いですね! ラブライブ!っぽいなぁと思いながら見ています。

      未来に向かって広がる期待感って言葉が、まさに的を射たものですね。
      多分、人間は「何かになれるんだ!」って思っている時が一番ワクワク、キラキラできると思います。
      変えるとか夢とかは、結局「何かになること」なんですよね。
      9人が9人で、果たして何になろうとしているのか、これからが楽しみです!

  2. 拓ちゃん 2017.02.28 12:08pm

    Aqours 1st LoveLiveの2日間が終わり、
    ふと思い出して、このエントリーに戻ってきました。
    これから書くことは1stライブのことになります。

    このエントリーで既に書かれていた「とても勇気の要ること」を、逢田さんは周りの心配を押し切ってでも、『桜内梨子』としてのパフォーマンスをしたい!
    ─と、自分に課したのでしょうね。

    「けいおん!」や「バンドリ」でも楽器未経験からステージ演奏するまでやってくれた方たちはいましたけど、演奏を止めて立ち尽くすという場面は私の記憶にはありません。
    しかし、パフォーマーとしてやれることがあるなら、全部やって出し切りたい。
    今以上に『桜内梨子』と向き合い、寄り添うためにも、「想いよひとつになれ」という曲を9人でパフォーマンスするには、やったことがなくともピアノに向かわなければいけない─

    そこまで自分を追い込まれたかどうかは定かではありませんが、ほとんど命綱を付けずに渡ろうとするタイトロープだったように思えます。
    照明が落ちたステージ上で伊波さんが階段を上る逢田さんを見送るあのワンショットはとても印象的で。
    その伝わる信頼を裏切りたくない、と更に極度の緊張が逢田さんを苛んでいたのはスクリーン越しでもはっきりわかりました。

    失敗は失敗。
    ライブとして曲を止めてしまうのは“致命的”と言えます。
    でも、あの場面は今回のライブの中の“クリティカル”なシーンであったことは疑う余地はないでしょう。
    英語で「critical break」…って「重大な運命の転換、大きなチャンス」という意味です。
    意地の悪い言い方になってしまうかもですが、梨子も逢田さんもこの「critical break」を経験したことは人生の中で貴重で重要だったと思います。
    これを糧に一層の飛躍を目指して、ファンに応えるのが『プロ』なんじゃないかな、と考える次第。

    おそらく実現はしないでしょうけど、ひとつランティスにお願いしたいですね。
    1日目のでいいですから、ライブ音源による『想いよひとつになれ(完全版)』を出してくれませんかね。

    • ばかいぬ 2017.02.28 11:34pm

      >拓ちゃんさん
      このエントリーに戻ってきてくださってびっくりです!
      自分でもすっかり忘れていましたw ありがとうございます。

      逢田さんからしたら、あの曲を9人でやるには自分がピアノを弾くしかないですよね。
      大変なチャレンジだったと思いますが、それでも9人でこの曲をパフォーマンスすることに意味があるのでしょう。
      一生忘れないと逢田さんもおっしゃっていましたが、本当にこの2日間と、これまで積み重ねてきた練習の日々は
      彼女にとってcritical breakになったと思います。

      ライブ音源聴きたいっすねー! BD以外でも出してほしいですね。

ページ上部へ戻る