南ことりの現実主義

南ことりの現実主義

  「ことりはいい女だなぁ〜」

 

 アニメ版『ラブライブ!』を一緒に観ていて、お姉ちゃんがよく口にする言葉です。言うのは決まって、μ’sたちが穂乃果の提案についていくべきか悩んでいる際に、ことりが「私はいいと思うな」と言った時です。拮抗している現状を、背中を押して一歩前に進めることりの一言。13話で絵里は穂乃果に「変わることを恐れない」ことを教わったと話しましたが、同様のものをことりはもっています。

 

 『School idol diary』では、そんなことりの姿を垣間見ることができます。

 

受け入れる街

 小学校に入る少し前に秋葉原の街へ引っ越してきたことり。もともとここに住んでいる穂乃果や海未と違って、外からこの街を見ることができることりは、秋葉原というエリアを強く意識しています。曰く「変化と伝統をあわせもっている街」。

 

 他の街から移り住んできたことりにとって、秋葉原は受け入れてくれた存在なのです。変わらなくてもいいし、変わってもいい。キラキラと光っていても、鈍い輝きを放っていてもいい。

 

どんなものにも価値はあるって。そういうふうに街が言っているみたいに。

だからみんなここにおいて、楽しいよ――って。

呼んでいるみたいに思える街――。

 

 だからこそ、のびのびと育つことができたとことりは語ります。

 

 ことりを受け入れたのは、街だけではありません。人もそう。もちろん、穂乃果と海未のことです。

 

 

受け入れる人

 3章では、小さい頃のことりは足が悪かったこと、歩き方のことでからかわれたり同情されたりしたこと、手術を受けて今は完治していることが明らかになります。おそらく、手術痕でしょう。ことりは小学生になっても、左膝の傷を隠すためにずっと長いスカートを履いていました。

 

 それを聞いた海未は、翌日穂乃果と一緒にミニスカートをもってことりの家にやってきます。それを履いて、学校に行こうというのです。

 

 なんとなくだけど隠しちゃって、それはやっぱりみんなと同じ普通の女の子でいたかったからということり。長いスカートはお姫さまみたいで、みんなに羨ましがられたよと話すことり。でも、海未のまっすぐな視線はことりの本心を捉えて離しません。「そう――なんですか?」と聞く海未は、まるで「そうではないでしょう?」と言っているようです。

 

 非常に定義しにくい「普通」という言葉に加えて、「女の子」まで付くとなると、もうとてもデリケートな言葉になるのですが、ただ少なくともことりのなりたかった「普通の女の子」は、傷を隠してひたすら長いスカートを履き続ける女の子ではなかったはずです。「可愛い服を着て可愛くなりたい」という「普通の女の子」になりたかったのではないでしょうか。

 

 幼いながらも、海未はそれを読み取っていました(ここら辺、海未は本当にイケメンであり乙女ですよね)。読み取った上で、隠させ続けるのではなく、穂乃果も巻き込んでことりに短いスカートを履かせます。ここで海未は、ことりのやりたいことを後押ししてあげているのです。

 

 これは単なる友達の優しさにとどまりません。海未と穂乃果が、昔からのコンプレックスごと自分を受け入れてくれたことは、ことりの人生にとって大きな一歩。あなたにはこんな姿があると示されたそれは、自分がずっとなりたかった姿。ことりはそれでいい。そうなっていい。

 

 コンプレックスって、人の目なんです。他人からはどう見えてしまうのだろうと、どうしても、どうしても気にしてしまう。でもこの一件を経て、ことりは人の目ではなく自分の目で、自分を見られるようになりました。だから好きなこと、やりたいことに一歩を踏み出せる。こうなりたいというものに「なろうとする」ことができる。

 

 これがきっと、ことりの一歩を踏み出せる性格の要因になったのだと思います。「ことりは自分が好きだから――このスカートをはいてるの」という言葉がとても印象的。この本の中で、僕は3章が一番好きです。

 

 

ことりの現実主義

 もうひとつ、ことりの大きな特徴について話しましょう。彼女は他人を非常によく見ているということについてです。

 

 μ’sのメンバーであれば、希が同じく他人をよく見ていますね。どちらも、見守っていてくれるような……この2人が助手席クイーン総選挙で1位2位に選ばれるのも、分かる気がします。ただ、2人の見方には違いがあると僕は思っています。

 

 希は、その人の足りないところを補う感じ。ことりは、その人に何かを付け足す感じ。

 

 その人を見て、これを足せばもっと素敵になる、こんなのが似合うというのがことりです。これってまんまアパレル店員さんですよね。本人の雰囲気を第一に、アイテムを選んで付け足していきながら、理想のスタイルにもっていこうとする。目標から階段を下ろしてくるのではなく、現状から上に向かってレンガを積み重ねていくイメージです。そのためには、相手のことをつぶさに観察することが必要。

 

 こういうことをしているせいか、ことりはああ見えてものすごく現実的です。

 

 5章の、音ノ木坂学院生御用達の「上田屋洋品店」が閉店しそうということで穂乃果たちが奔走するお話。終盤にことりが制服リメイクのサービスを思いついた時、彼女はこうモノローグで語っています。

 

だれも――この制服を引き継いでいってくれる後輩として、現れることはもうないから――。

 

 この1ページ後には「まだまだあきらめちゃいけないですよね!」って思い直しているのですが、最初に上記のような思考になるのは、とてもことりらしいなと思ったのです。

 

 諦めるわけじゃないけど、まず現状を見つめる。音ノ木坂学院が廃校になりかけていて、洋品店もそれに伴ってお店をたたもうとしている現状です。これに何かを足してみる。何かというのは、ここでは制服リメイクのサービスを始めようということ。それによって、もしかしたら新しい運命や可能性が開かれるかもしれない。

 

 ことりの考え方は、こんな感じ。「現在」がスタート。意外と現実主義者なのです。何が何でもこうするんだ、とまず目標が出てくる穂乃果とは対照的なのが、とてもおもしろい。アニメ版で唯一、今と将来を天秤にかける役割を担ったのも頷けます。

 

 こんな現実主義な女の子、冷めているでしょうか? いいえ、僕はこれを大きな優しさだと思っています。

 

 

ことりの優しさ

 新しいものというのは、人を傷つけます。必ず現状を否定するからです。穂乃果のように新しい場所へどんどん進んでいく存在は、前に進む原動力になると同時に、ほんの1ミリだけかもしれないけれど、ちょっとずつ周りを傷つけている。乱暴な言い方をしています。アニメ11話で新曲をねじ込んだり、急に振り付けを変えたりする穂乃果に周りが戸惑うのは、このためです。

 

 ことりのようなタイプはその逆です。前に進む原動力にはなりにくいかもしれないけれど、刃が出てくることはない。穂乃果を引き合いに出してしまいましたが、どっちがいいということではありません。役割が違って、両方いるから絶妙なバランスになるということ。ことりが機能しなくなった11話でμ’sが崩れかけたことこそ、その証左です。

 

 閑話休題しましょう。
 ことりの、現状をまず見るというのは、対象のありのままを最初に受け入れるということです。

 

 ああなった方がいいとか、こうした方がいいとか、そういうことは言いません。あなたはこういう人なのね、そしたらああするといいかも。こういうのもありじゃない? 上述のように、付け足します。付け足すために、ありのままを受け入れます。ちょうど、小学生のころに海未や穂乃果にそうしてもらったように。

 

 だから、「私はいいと思うな」という言葉が言えるのです。他人に対して、「そういうのもありだよ」って思える。これはとてつもなく大きな優しさだと、僕は思うのです。

 

 

 7章。地元の夏祭りの水着大会で、ことりはμ’s代表として出場し、見事優勝を飾ります。

 

 μ’sの中でも前に出るタイプではなく、自分でも「裏方っていうか、どっちかっていったら地味な部分の担当」と思っていて、それを楽しんでいるということり。そんなことりがこの本の最後に、ひとり表舞台に立ってスポットライトを浴びるのです。

 

 短いスカートを履いて、着たい服を自分で作り、それを身にまとってイチバンになる。健気さと優しさ、そして堂々とした凛々しさをもあわせもって、ことりは輝くのです。

 

 「ことりはいい女だなぁ〜」と、この本を閉じた時、自ずと僕もつぶやいていました。

 

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COMMENTS & TRACKBACKS

  • Comments ( 6 )
  • Trackbacks ( 0 )
  1. By しめすへん

    概ね同意できる内容。
    ことりは新しいことをやりたがる穂乃果と保守的な海未との間で育ってきた。ゆえに真逆の二人が対立した時に調整役になることが多く。それゆえ対立項目間の現実的妥協点を見出す能力が高いのだろう。
    ただそれゆえにことりは自分で何かを決めた経験に乏しく、留学の件も穂乃果に決めてもらおうと考えてしまった訳で、穂乃果のわがままな行動力と同じく一長一短があったりする。

    ラブライブ!は他にも、ラッキーガールの希が自分のためでなく他人のためにしか行動できない事や、人を押しのけてでも輝きたいと思うハングリーさを持つ矢澤にこがちゃんと苦労人だったりと、この手のコンテンツにしてはかなりキャラ造形がしっかりしている。

    正直、奈須きのこや岡田麿里にも匹敵するキャラ造形だと個人的には思っている。

    • By bakainu

      しめすへんさん、コメントありがとうございました! 遅くなってしまってごめんなさい。
      ことりは本当に調整役として優秀ですよね。穂乃果と海未の間に立っても、今はどちらを抑えればいいかということをよく分かっているというような……。

      留学の件は、確かにことりはイエスマンであり続けましたが、まああの年頃の女の子が、ずっと一緒だった仲間から離れてひとり海外に行くっていう選択肢が出てきたら、そりゃあ親友に相談しようとするよねとは思います。
      それが一般的か、ことり故なのかは別として、それぞれの一長一短が噛み合っているのがμ’sの面白いところだと感じますね〜。仰るとおり、しっかりしたキャラ造形です。

  2. By ガブリアス

    君は本当にいい女だ!

    • By ばかいぬ

      ( ´∀`)bグッ!

  3. By ことり推し

    これ読んで改めてことりの良さに気づきました!
    ことりは本当に頭の良い子なんだと思います。
    周りを見る能力にたけていて、ことりを中心にどんどん他のメンバーの話に発展できる。そして、やっぱり穂乃果の親友はことりにしかできません! そう思います。
    いい紹介文ありがとうございました

    • By ばかいぬ

      >ことり推しさん
      こちらにもコメントありがとうございます。
      ことりは周囲をよく見て、誰かにプラスアルファをもたらす存在ですよね。
      だからこそ、穂乃果との相性もあれだけ良いのだと思います。
      真姫に続き、記事を見つけてくださり、感謝です!

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