掴みにいく女 〜 『オリンライジング!』感想

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 ひっさしぶりの本のレビューです。お世話になっている風華チルヲさんが新刊を出されたということで買ってきました、『アイドライジング!外伝 オリンライジング!』です。

 

 僕はラノベが読めない頭なので、外伝となればやはり本編も知っておかねばと思い、コミックス版『アイドライジング!』1巻も購入しましたが、いい意味で裏切られました。外伝だけでも面白いし、本編も読んでいたらもっと面白い!

 

 というのも、2冊とも読むと、それぞれのヒロインが同じ作品の中でとても綺麗に「対照的」なんです。

 

アイドライジングとは

 

 そもそも『アイドライジング!』とは。近未来における海上都市ニライカナイを舞台にした、アイドルたちが文字通り闘う物語です。
 アイドルたちは企業の技術の結晶である「バトルドレス」に身を包み、また広告塔として1vs1で闘います。これが日本を席巻しつつある一大エンターテインメント「アイドライジング」です(僕としてはこれ、プロスポーツと呼びたいですね)。

 

 本編『アイドライジング!』では、素直でまっすぐな主人公アイザワ・モモが、ひょんなことからアイドルにスカウトされ、アイドライジングに出場して成長していく姿を描いています。

 

 一方『オリンライジング!』は、本編に登場するアイドルの一人であるハセガワ・オリンが主人公のストーリーです。オリンは、背は低いけどプライドは高い不器用な女の子。前述したとおり、この2人の対比が、もっというと対比によってより顕わになるオリンの人間性が、僕にはとても魅力的に見えました。

 

 

正反対のふたり

 

 モモは素直でまっすぐ、そして熱さも秘めている女の子です。とある事情でお金が必要になったモモは、飛び込みでアイドルオーディションを受けようとします。事務所の前で立ち往生していたモモはスカウトされ、一気にアイドライジングの舞台まで上り詰めます。

 

 オリンはどうでしょう。プライドが高く、クラスメイトのお昼ごはんの誘いも突っぱねてしまう彼女には、友達がいませんでした。ところがたまたま代役として出場した地下アイドルの舞台で、オリンはステージに立つ魅力に取りつかれます。

 

 やがてアイドライジングを志すようになった彼女は、何度も何度も何度も何度もオーディションを受け、自分を「ウケる」ように見せ、やっとの思いで合格を勝ち取るのです。

 

 2人が初めて邂逅するのはここ。オリンが通ったはずのキャンペーンガールのオーディションで、急きょアイザワ・モモが合格者として選ばれます。

 

 180センチ以上の恵まれた身体、そのキャンペーンガールにぴったりの容姿、「闘うアイドル」としての天賦の才能(もっとも、これはその後に分かることですが)、そしてスカウトした室長との偶然の出会いで、アイドルの座を掴んだモモ。端的に言ってしまうならば、モモは天才です。言い方は悪いかもしれませんが、彼女は与えられたものでここにいる。努力を重ね、ようやくひとつ合格したオリンとは正反対です。だからこそ、オリンが輝くのです。

 

 『アイドライジング!』ではいきなり役を奪われたオリンはやられ役的な描かれ方をしています。そこを敢えて突っ込んで突っ込んで、人間臭く描いたのが『オリンライジング!』です。僕はこの作品が、オリンをやられ役という「キャラクター」からハセガワ・オリンという「人間」に仕立て上げているのがすごく好きです。

 

 

オリンの「場所」

 

 オリンの物語でひとつキーワードを挙げるならば、僕は「場所」を選びます。

 

 場所、というと僕は必ずスポーツの話をしてしまいます。スポーツ、特に球技にはほぼ必ず「ポジション」があります。まさに場所ですよね。そしてポジションの中には「役割」があります。そのポジションの選手がするべきことです。役割とポジションを得て、選手は初めて観客に認識されます。

 

 スポーツに限らず、人間は他者に認識されないわけにはいきません。人間の基本的な欲求として、他者からの認識というのは絶対的に存在します。そのために、人には「場所」が必要なのです。

 

 オリンには、場所がありませんでした。クラスメイトの誘いも無碍に断り、孤高を演じていたはずが孤独になってしまった子です。そこに舞い込んできた地下アイドルステージへの代打出場。ここでとうとうオリンは何度も目の前に来ていたチャンスをようやく掴みます。

 

 与えられた「役割」は、まさかの着ぐるみアイドル(しかもブタ)。それでも、オリンはやり抜きます。役割どうこうは問題じゃない。今そこに彼女の「場所」があることこそが、オリンにとって新鮮で、気持ちよくて、たまらない瞬間だったのではないでしょうか。

 

 「もっともっと私の居場所を輝かしいものにするんだ――」。彼女はお昼休みもノートを前にステージングを考えます。その時、輝いているのは彼女の居場所だけではありません。オリン自身も輝いているのです。

 

 人間には他者からの認識が必要。同時に、もうひとつ必要なものがあります。自分から自分に対する認識です。居場所があると自分から思えること。人にとって、オリンにとって、これは最高の幸福のひとつです。

 

 じゃあ、そのせっかく手に入れた「居場所」をどうして手放したのか。

 

 

オリンの「やりたいこと」

 

 「場所」って、連れてこられるところ、作るところ、行くところの3つがあると思うんです。モモは自らの才と運に、連れてこられました。オリンは地下アイドルとして、連れてこられたのが半分。あとの半分は自分で作り上げました。そして今、オリンはモモのいる舞台へ行こうとしています。

 

 その場所が輝くかどうかに、場所のレベルは関係ありません。あるのはただひとつ、「やりたいこと」であるかどうかです。

 

 地下アイドルのステージに立って、オリンには「やりたいこと」ができました。そしてアイドライジングの舞台を目の当たりにして、もうひとつ「やりたいこと」ができました。

 

 自分のやりたいことってキラキラして見えるし、やっている自分なんてもうまばゆいばかりの姿を想像してしまいます。オリンにとって、アイドライジングをやっている自分は想像できる範疇だったんです。つまり、手を伸ばせば届くんじゃないか。私、いけるんじゃないかと思えた。

 

 でも、今ここにいる自分、いさせてくれる場所だって大事。じゃあどっちを選ぶ? オリンの答えを決めたのは、彼女の一貫した考え「その先を見たい」でした。

 

 地下アイドルとして初めてステージに立つ時、モノローグでオリンは決意します。「その先を見たい」。そして「アイドライジングを目指そう」と仲間を説得する時も「もっと先へ行ってみたいって」と言います。これがオリンの根幹であり、単身アイドライジングを目指すことを決意した一番の決め手だと僕は思います。

 

 考えてみれば、この「先を見たい」と前へ前へ進む力こそが、ここで言う「アイドライジングに出場している自分を想像できる」ことにつながるのかもしれません。いえ、想像している描写などないのですが、想像できるからこそ「目指そう」と口に出して言えると思うんです。こうして前へ前へ進むことで、オリンは自分のやりたいことを「レンジ(間合い)」に入れているんです。手を伸ばせば掴める距離まで近づく。近づくことに、努力を惜しまない。「掴みにいく女」オリンに、僕が一番魅力を感じる部分です。

 

 と、至極簡単に決めたように書きましたが、その実さすがのオリンも悩みに悩みます。見開き2ページぶち抜きでベッドの上をゴロゴロしながら悩みます。これがまた人間味溢れててすごくイイ。一番好きなコマだなぁ。そしてこの3話のサブタイトルは「掴み取るために手を離す」。人が手に持てる量って限られてるんですよね。

 

 

場所の次は……。

 

 先ほど、ポジション=場所には役割があると書きました。晴れてアイドライジング出場アイドルとなったオリンにはバトルドレス「フェアリーテイル」が託されます。しかしこれを身にまとったアイドルは「ギャグアイドル」のレッテルを貼られるというある意味いわくつきのもの……つくづく、ルックスにそぐわないものが与えられるオリンです。

 

 しかし、オリンの所属事務所社長であり、プロデューサーであるウダガワ・ジュンイチはこう言います。

 

勝つことはそれほど重要かい?

これはアイドライジング ショー&バトルのステージだよ

オリンちゃん 君はショーを見せるアイドルになれ

女王(クイーン)ではなく道化(クラウン)に それは君の武器になる

 

 女王ではなく道化。これはまさしく「役割」そのものです。このポジションで、このステージで、どの役を演じるのか。1巻では「場所」の話でしたが、次巻以降は「役割」の話になるのかななんて想像してしまいます。

 

 僕はどうしてもアイドライジングというエンターテインメントを、スポーツの側面もあると見てしまっているのでこう思ってしまいますが、どこかでオリンは「役割を演じたことでの勝ち」ではなく「試合としての勝利」を欲する瞬間が出てくるんじゃないかな、なんて思うのです。そのギャップも描かれたらおもしろそうだなぁ。

 

 これから描かれるオリンの人生譚。その “生き様” で、オリンがどんなステージまで “Rising” =上り詰めていくのか、期待して追いかけていきます。

 

 

アイドライジング!外伝 オリンライジング! (1) (電撃コミックスNEXT)
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アスキー・メディアワークス

 

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藤島真ノ介
アスキー・メディアワークス

 

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